2017年5月2日火曜日

2017.05.02 佐藤愛子 『それでもこの世は悪くなかった』

書名 それでもこの世は悪くなかった
著者 佐藤愛子
発行所 文春新書
発行年月日 2017.01.20
価格(税別) 780円

● 故・吉行淳之介さんは,文壇一のモテ男だった。亡くなったあとも,何人かの女性が私が一番愛されていたという内容の本を出していて,その中のいくつかはぼくも読んだ。
 中村メイコさんも10代で出会った吉行さんについて,『メイコめい伝』の中で熱く語っていた。故・山口洋子さんも,吉行さんとの対談で自分の思いを隠さずに語っていたことがあった。
 それらを読んだのは若かりしときだけれども,世の中にこんな果報者がいるのかと思った。

● けれども,佐藤愛子さんは,その吉行さんにわりと辛口だ。
 (川上)宗薫が好きで,尊敬もしていた作家は,吉行(淳之介)さんでした。吉行さんは,誰が見てもハンサムだし,気働きの人でしたね。でも,カッコいいなんていうのは,私には向かないの。アホなところが全くないのがね。(p148)
 (色川武大さんは)みんなに好かれる人でした。自然体のところが魅力でした。吉行さんもみんなに好かれる人でしたが,どこか気働きが先に立っているように感じられて,私のような野人には少しうっとうしかったです。(p153)
 ということだ。辛口とまではいかないのかもしれないけれども,吉行さんをよく言わない女性を初めて知った。

● もちろん,そういうことがこの小さな本の主内容ではない。この本で著者が語っていることをひと言で言えば,どう生きようと一局の人生,ということだろうか。
 でもって,全体を覆っている色調は豪快さ。

● 以下に多すぎるかもしれない転載。
 そんないちいちね,何かことがあるたびに感想を持つわけじゃないんですよ,人間は。何かする時だって,思わずする,ということがあるんです。 今の人は分析が好きなのか,なぜ,なぜ,と聞くんですね。なぜということを聞いたって,別にどうということはないんです。(p5)
 私は人生相談の回答者には向かない人間です。人は好きなように生きればいい,人生相談なんかするな,としか思っていないんです。第一相談したところで,結局人間は自分の好きなように生きているんですよ。(p5)
 人生の苦難に遭った時,誰かのためにそうさせられたと思う人は多いけれども,自分の人生を選んだのは自分だと思った方がいいんじゃないかと思います。何があろうと,自分の性質のお陰でこうなったと思えば誰も恨むことはないし,心平らかに反省の日々を送ることができます。(p6)
 私は人間に対する興味が人一倍強いんだと思います。小説というのは,人間の面白さを描けばいいのではないか,と考えたんですね。 ところが,売れる小説というものはたいてい人間の面白さではなくて,ストーリーの面白さを追求しているんです。最初にストーリーを付くって,そこに人間をはめ込んでいくという書き方ですね。でも私は,自分が面白いと思う人間がどう生きていくかに興味がある。(p29)
 ある時,(吉田一穂)先生がこう仰った。「女に小説は書けないよ。女はいつも自分を正しいと思っている。そしてその正しさはいつも感情から出ている。だからダメなんだ」(p36)
 苦しいことが来た時にそこから逃げようと思うと,もっと苦しくなる。逃げないで受け入れた方が楽ですよ(p42)
 やっぱり貧しくて,それで一所懸命に暮らしている人を見ると,お互いに助け合っていきましょう,とそんな気持ちになります。ところが,そんな気持ちになっているところを,相手の方はピシャリと裏切ってくる,なんてこともあります。だけど,それもまた人間の一部なのでね。そういう体験の積み重ねで,私は小説家になれたのだと思います。(p60)
 人生というのは,わからないですね。マイナスがあった時に,そのマイナスがあったからこそ後のプラスが生まれたんだ,ということが,長く生きているとわかることがあるんですよ。だから,いまマイナスが来ているからって,ちっとも悲観することはないの。(p60)
 ところが実際に貧乏になってみますとね,どうっていうことはないんですよ。朝になったらお日様は上がるし,夕方になったらお月様は出る,そのことに変わりはないわけで,まあ,こんなものか,というね。(p61)
 貧乏になると,何かこう陰気な顔をしなければいけないものなんですね。(中略)それが元気でいるもんだから,「あいつは金を隠しているに違いない」となる。 世間というのは本当にいい加減なものだなあ,(中略)人間の真実なんかわかるわけがない,ただのアホなんだ,とつくづく思いました。(p62)
 何でも失敗しっぱなし,ということはないですよ。その後の生き方によって,いくらでもそれをひっくり返すことができるんです。でも,そのためには楽天的でいることですね。(p73)
 今の人が言う繁栄は,経済の繁栄ですからね。金がなくても「しょがないもなあ」で済ませていられるその精神力というか,鈍感さというか,それもまた才能だと私は思います。(p80)
 外がうるさいから覗いたら裸の男がいる。「まあ,イヤねえ」というのは女であって,男はそういう時に何も言わずに笑って済ませるものなんですよ。それが男と女の本質的な違いであるはずなんです。だから,女が警察を呼んだのならまだ許せる。男たるものがねえ。(p92)
 満州,朝鮮からの引き揚げでは,母と子は生きているけどお父さんは途中で死んじゃった,ということが本当に多かった。(中略)女は強靱で,男はもともと弱いんですね。(p103)
 女は子どもを抱えて生き抜かなくちゃならない。生き抜く,それは現実そのものであって,男意識なんて役に立たない。(p103)
 女はリアリストですから,生活するための知恵と力がいくらでも浮かぶんですよ。(p104)
 お産に亭主が付いてきてフウフウハアハア一緒に言うなんてのはね,お産に対する冒涜だと私は思います。お産というものは一人で耐えて一人で産みだすことによって,女に力がつくものなんです。(p122)
 男の子は泣いていると言うんです。それでもお母さんががんばって,「切れ,切れ」と言うものだから,恐る恐るやってみるけれども,へその緒って硬くてなかなか切れないものなんですってね。それを泣きながら一所懸命に切ろうとする。 私はね,彼はおそらく一生インポになると思いますよ。トラウマになってね。どれだけ傷ついたかですよ。 そういうことも思わないで,命の誕生の・・・・・・何だかもう忘れましたけれど,そういうものを教えたいという母親の意図は物凄く強いものだった。そのお母さんは,観念の奴隷みたいになっていますね。そういうつまらないことを考えるなら,何も考えない方がマシなんですよ。(P124)
 長いこと生きるとわかってくるんです。人生というものはね,幸福だのなんだのと言ったって,どうっていうことはないんですよ。(中略)だから,苦労をするまいと思って頑張る必要はないんですよ。その方がいろいろなことがわかるんだから,苦労したってどうということはない。反対に,幸福になったからと言って,別にどうということはない。(p128)
 今は本当のことを言ってはいけない時代なのね。いつも傷つけた,傷ついたということばかり考えてものを言わなければならないとしたら,人間は萎縮してしまうんじゃないですか。政治家に信念がないなんて批判する人がいるけれど,八方に気を遣っていると信念なんか持ってこない。とにかく小うるさい,小さな世の中になりましたね。(p140)
 私は死後の世界はある,と思っている人間です。(中略)アイヌの人たちの怨念の場へ,私は家を建てたんです。そうしたら,いろいろな超常現象が起こりました。(p173)
 何も苦しいことがなければ,幸福は生まれないのですよ。幸福を知るには苦労があってこそなんだというのは,苦労から逃げた人にはわからない真理だと思います。(p183)

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