2017年3月21日火曜日

2017.03.19 石田衣良 『モーツァルトのいる休日 大人の楽しむクラシック』

書名 モーツァルトのいる休日 大人の楽しむクラシック
著者 石田衣良
発行所 マイナビ新書
発行年月日 2016.09.30
価格(税別) 850円

● 幻冬舎から出ている『I LOVE モーツァルト』を底本にしているらしい。それも読んでいるんだけど,別の本になっていると思った方がいいようだ。
 特に,底本にはない加羽沢美濃さんとの対談がけっこうなボリューム。

● 聴き手が百人いれば,百通りのモーツァルト解釈が成立する。その解釈の幅の広さ,バラエティの多彩さを,モーツァルトほど許容する作曲家は,たぶんいないのじゃないかと思う。
 つまり,それがモーツァルトの凄味だと思う。凄味と書いてしまうと,鋭角的な鋭さを連想させるけれども,モーツァルトはそうではない。鋭角的だとか鋭いという印象を与えるものは,じつはあまりたいしたことはない。
 モーツァルトはふんわりと柔らかく,それでいて無限の許容性を持つ。後にも先にも,こんな作曲家は彼だけだ。

● 以下にいくつか転載。
 それまでに何十万曲というポップスを聴いていたおかげで,「音楽を聴く耳」ができていたのだろう。真剣に音楽にむきあって,長い年月をすごせば,そんなジャンルの音楽によってでも,音楽の耳は育成できるのだ。(p14)
 わからないものを少しずつ覚えながらいいものを探していくのはとても楽しいことだ。ああいう楽しいことが数年に一回あったらとても幸せだろう。(中略)ある程度の歴史の積み重ねがあって,知識と技術の広さ,深さがきちんと蓄積されたジャンルはちゃんと探求のしがいがあるのだ。(p17)
 わからにうちのほうがおもしろいのだ。知識を得ようと急がないほうがいいと思う。ぼくもあっという間に四十歳を過ぎてしまった。昔だったら「何でもいいから早く知りたい,覚えたい」と焦っていたことを,なるべくゆっくり,ちょっとずつわかりたいと考えるようになってきた。「お楽しみ」を急いで食いつぶしてしまいたくないのだ。(p18)
 本当に一番素晴らしいのは,芸術そのものではなくて,それを「素敵だ」「おもしろい」と感じることができる人の心である。(中略)人間の心のキャンバスのほうがどんな芸術よりもうんと広大なのだ。(p20)
 モーツァルトの音楽を聴いていると,絶対のテンポ感,タイム感覚を感じる。これは,テレビのアナウンサーと交わすスタジオ・トークと不思議に似た感覚だえる。「残り十秒」と指示されたときに,彼らが余裕の顔でしゃべりながらきっちりと十秒を刻んで言葉をあたはめていく,あの感覚。(p23)
 小説を書く場合は,「何がおもしろいのか」を最初の一行からラストまでぎゅっと握り締めて書かなければいけない。そのグリップ力がモーツァルトは恐ろしく強いと思う。(p25)
 モーツァルトの曲は,「このあとはこうなるといいな,次はこんなふうにいってくれるかな」と期待したとおりに,しかもこちらが予測するよいもずっと鮮やかに見せてくれるということ。そこがモーツァルトの天才の凄みなのだ。(p26)
 こんなに哀しかったり喜んだり笑ったりしているくせに,すべてにおいてどこか超然とした雰囲気があるというのもおもしろい。(p27)
 息子の出来があまりによすぎたので,てっとりばやく結果を求めすぎたのである。そこでぐっと待つことができなかったのは,親としての弱さだったのではないか。(p44)
 「情操教育」として無理して音楽を習わせるのはやめたほうがいいんじゃないだろうか。親のほうにこそ情操教育が必要なはずだ。(p45)
 映画でも文学でも,文化って無駄な知識を楽しく話せるということ自体が大切なのだ。(p69)
 日本の男がどんどん薄っぺらになっていくのはつらい。映画館,美術館,演劇にコンサート,どこでも女性客が七~八割なのだ。男たちは見る影もない。(p70)
 ロマン派以降のピアノ協奏曲はピアニストの名人性・名技性が前面に出てきて,ぼくにはそれが少々ウザいのだ。(中略)指が速くまわるだけだったらコンピュータにでも弾かせておけばいいと思う。超絶技巧にふさわしい超絶的な精神なんてほとんどの人間にはないのだから。(p77)
 音楽に出ている表面だけを見ればいいのだし,その表面が素晴らしいのだ。人間もそうなのかもしれない。外側に出ているものだけがすべてで,本当は内面なんて考えなくてもいいのかも・・・・・・。(p105)
 私は楽器としてはクラリネットよりオーボエが好きなんですけど,あの曲(クラリネット協奏曲)はオーボエじゃ泣けないんです。クラリネットじゃないとダメなんです。(加羽沢美濃 p151)
 現代人の悪い癖で,何でも知識から入ろうとするんだよね。日本人は特にそうなのかもしれないけど,何かを感じてそれを感じたままに表現するのが苦手。(p154)
 クラシック音楽や美術の鑑賞で黙り込んでしまうというのは,要するにみんな,正解があると思っているからなんだよね。だから今さら自分の感情なんて関係ないと思ってしまう。だけど,音楽や美術,芸術に正解なんてない。もっと自由に楽しめばいいんだけどなぁ。(p154)
 すごい演奏家は,普通にドレミファソって音階を弾くだけでも人をわーっと感動させてくれるよね。(p163)
 その,おしゃれをするっていうのがすごく大事だよね。(中略)ちょっと無理して背伸びをする,ちょっと澄ますというのが本当に大事なんだ。(p180)
 エピソードがある人生は素晴らしいと思うんだ。面白おかしいエピソードを貯めるために文化ってあるんじゃないかと思う。どうせいつかはみんな死んじゃうんだもの。(p182)

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