2017年3月13日月曜日

2017.03.06 伊集院 静 『追いかけるな 大人の流儀5』

書名 追いかけるな 大人の流儀5
著者 伊集院 静
発行所 講談社
発行年月日 2015.11.16
価格(税別) 926円

● 「週刊現代」の連載を1冊にまとめたもの。週刊誌の読者も高齢化しているに違いない。若者は週刊誌など読まなくなっているのではあるまいか。
 昔の若者は背伸びをして(?),オッサンが読む週刊誌というものを読むことがあったのだと思うけれども,今はそんな背伸びなどする必要がない。

● が,毎回思うことだけれども,こういうエッセイが連載されているのだから,日本の週刊誌というのはレベルが高い。
 他の国では,知的階層がはっきりしていて,いわゆる週刊誌にこうしたエッセイが載ることはないと聞いたことがある。

● 以下に転載。
 私たちは日々,日常のさまざまなことに懸命にむかうのだが(そうでない人が多いし,それが人間らしくもあるが),今日はいい一日だったと実感が持てる一日はそうそうあるものではない。そのことは逆に言うと,私たちの日々は上手く行かない方が多いのである。これは万人が共通するところなのだ,とこの頃,わかるようになって来た。(まえがき)
 望み,願いと言った類いのものを,必要以上にこだわったり,必要以上に追いかけたりすると,それが逆に,当人の不満,不幸を招くことが,私の短い人生経験の中でも間々あり得ることを見て来た(まえがき)
 検査を終え,車椅子に乗って病室に戻って来た彼女が,Vサインをして私に笑いかけた時,その明るさに苦笑いをした。-なんだ,助けられてるのはこっちか。(p16)
 自分だけが,自分の身内だけが,なぜこんな目に・・・・・・,と考えないことである。気を病んでも人生の時間は過ぎる。明るく陽気でも過ぎるなら,どちらがいいかは明白である。(p17)
 並んでまで食べるものが,世の中にあるとは思えない。銀座では鮨店にも並ぶ。安くて旨いってか。鮨を並んで喰って,どこが江戸前の粋じゃ。(p21)
 「目の前にふらふらしているのをつかまえると碌なことはありません。だいたい目の前をふらふらしているのは蚊と同じだから」「どうしたらいいんですか?」「とっつかめて叩きつぶしなさい」(p22)
 作家は自分一人の才能で一人前になると思っている人もいようが,それは違う。人間の才能なんて高が知れている。どんな職業,仕事も周囲の人が見守り,育ててくれるのである。(p42)
 私は小説家であるから,本を読みなさい,と言う。しかし私はガキの頃,本を読んで何が面白いの,と思った。それでも読まないより,読んだ方が良かったと,かなり先になって感じた。(p91)
 太平洋戦争を,あれは軍部のひとかたまりがはじめたと今の日本人が考えたいたらこの国は大きな間違いをしていることになる。日本人の大半が,戦争を善し(やむなしは一番いい加減な肯定である)としたのだ。昭和の紀元節で日本人のほぼすべての人が,建国を祝い,自分たちにかなう敵国無し,と提灯をぶらさげて大騒ぎをしたのである。(p116)
 何しろ作家は負けず嫌いが多い。本当かって? 嘘だとお思いなら,作家を数人,ひとつ檻に入れてみるといい。三十分もしないうちに全員ブスッとした顔をして壁の方をむいて腕組みをしてるから。(p126)
 公共の場所,電車の中などで赤児が激しく泣き出し,それを五月蠅く思う時の対処の仕方を,私は母から教わった。“赤ちゃんは泣くのが仕事だから”。これが母の言い方である。(p131)
 “上手い”はつまらないものが多いのである。よく芸能人が絵を描き,××展入選などと新聞で紹介される記事を目にすることがあるが,バカも休み休みにしなさい,と私は思う。“上手”のレベルの絵は絵ではない。(中略) いかにも上手いという言うのは,私たちの小説の世界でも同じことが言えて,読む人が読めば上滑りしていることが見えてくる。(p141)
 手紙は気持ちを伝えようとした瞬間に,思ったことを文字にする方が良い。私はそれを井上陽水に学んだ。(p142)
 マキロイという若者が世界でトップというが,私はこの若者がまだ使えるボールを池に投げたのを見たし,今春,クラブを池に放った。人間がこしらえた道具をこういうふうに扱うバカは何十年経ってもまともな人間になれない。それが世界一というのだからプロゴルフの世界も程度が知れる。(p157)
 物を学んだり,物事を考察する行為は,最初,とっつきにくい所があっても,或る一点,或る領域を越えてしまうと堰を切ったように,知の並が押し寄せ,軽々とそこを泳いでいる自分がいたりするものだ。(p164)
 (“虚しく往きて実ちて帰る”の)“実ちて帰る”はどうでもよくて,“虚しく”のこの不安と孤独こそが人間を成長させる原動力であり,必須条件なのである。その証拠に空海は“虚しさ”の幅が人より何倍も大きかったから,人間業とは思えない能力を発揮して,密教をただ一人伝授されることができたのだろう,と私は考える。(p166)
 憂うのは,今の日本人の,個の甘さ,甘えである。皆がひとつの方向へ行けば,ワァーッとヒ弱な鳥のごとくそちらへ走る。(p177)
 昔は,大人の男が,知人でない相手に(知人であっても)食べ物が美味い,不味いは口にしなかった。食の話というのはどれほど慎重に書いても卑しさがともなう。(p179)

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