2016年8月1日月曜日

2016.08.01 長谷川慶太郎 『世界大激変』

書名 世界大激変
著者 長谷川慶太郎
発行所 東洋経済新報社
発行年月日 2016.08.11
価格(税別) 1,500円

● 北朝鮮が次の核実験をやれば,中国瀋陽軍区の人民解放軍が平壌を制圧し,金正恩を追いだして傀儡政権を作るという。
 この点について,米中で合意ができた,と。つまり,アメリカもそれを黙認する,と。

● 従来の長谷川説だと,北朝鮮が潰れればその数年後に中国も潰れるというものだった。東ドイツとソ連の例があるではないか,と。
 傀儡を作る話は出ていなかった。中国崩壊は遠のいたと見ているんだろうか。

● とはいえ,北朝鮮に政変が起こるのは激変であって,株価は下がるだろう(短期間で収まるだろうけれども)。今は持ち株を現金に換えて,キャッシュポジションを高めておくべきなのだろうか。

● 以下にいくつか転載。まずイギリスのEU離脱に揺れるヨーロッパはどうなるか。
 英国のEUからの離脱は今後の成り行きとして,残留に固執していたスコットランドが独立しEUに残ることになりそうである。そしてウェールズ,北アイルランドも独立することになり,島国イングランドだけが残り孤立する。(p4)
 多くの国民はそれを理解できない。どうしても過去の記憶に縛られてしまう。大英帝国だった頃の「古き良き時代」に回帰できるという期待を持ってしまうのだ。(p69)
 今後,欧州は混乱が起こる。これまでの方向性を進めるべきだという者と,変えるべきだという者との間で,激しい論争が起きるだろう。そして,変えるべきという者が多数になるのは明白である。なぜなら,各国の政府が経済的な行き詰まりを打開できないからだ。自身の生活が苦しくなっていけば,これまでの方向性を変えたいと思う者が増えるのを止めることができない。(p65)
 イギリスでは東欧,なかでもバルト三国からの移民急増に危機感を感じてきた。移民と言うと「貧しい人々」を連想することが多いが,バルト三国からイギリスへの移民には,理系の専門知識をもったエリートたちも多い。たとえば,医師や薬剤師,医療技術者たちである。 その結果,イギリスでは労働者階級の仕事だけではなく,大卒エリートたちも仕事を失う危機に直面している。イギリス人の半分の給料で喜んで働く医師たちが次々にやってくるのである。(p66)
 イギリスはEUに対して,もっと発言すべきであった。イギリスの主張をもっと押し通せていたら,今回のような国民の不満は高まらなかったかもしれない。しかし,それができなかった。なぜできなかったのか。資金力がないからである。資金力ではドイツに勝てなかった。(p67)
 欧州諸国は,伝統的に革新勢力が強く,「平等」を掲げた社会主義という思想が,自分たちを防御する一つのよろいかぶとのようになっている。しかし,それにこだわればこだわるほど時代から取り残されることになる。それは経済の上では敗者になる。(p75)
● というわけで,ヨーロッパは分裂に向かうと長谷川さんは予想する。その背景にあるのは,次のような基調だという。
 世界の各国・各地域で,分裂の様相を強めるが,それは地元住民のことを考えてくれという要求なのである。自分たちの権利と自由を拡大していきたいという意欲のあらわれであり,それが広まっていくのである。 デフレのなかで買い手,すなわち圧倒的多数の人間の意思が示されれば,受け入れざるをえない。(p5)
 アメリカのトランプ旋風も,「世界の警察官」であることの重荷を負い続けることへの民衆の鬱屈感が背景にある。(p5)
● 次にそのアメリカ。トランプが予想に反して共和党の大統領候補になった。が,トランプがもし大統領になったとしても,アメリカの外交政策に大きな変化はないだろう。
 国務省や国防省という官僚組織の力は絶大である。この官僚たちが世界中の情報を収集し,情勢を分析し,アメリカという国家の戦略を策定してきた。外交とは,それの積み上げであり,したがって,それを一挙に改変することなどできないのだ。 逆に言えば,巨大な官僚組織の意向を受け入れることができなければ,アメリカの大統領は務まらない。選挙に勝利すれば,トランプも彼らとある程度折り合いをつけて,現実的な政策へと転換していかざるを得ないだろう。(p84)
● 日本の「失われた二〇年」に対して,長谷川さんは積極的な意味を指摘する。
 日本だけが二〇年かかって金融の再建をしたのである。「失われた二〇年」と言われていたが,実際は懸命の努力をしてきたのである。都市銀行を一一行から三行へと統合した。ものすごいリストラをしたし,それに伴い不良債権の償却を行った。(p28)
 銀行は所有していた余剰不動産を大幅に売却した。これは著者が実際に一つのメガバンクのCEOから聞いた話であるが,その銀行は,かつて新宿駅を挟んで西口と東口に一一もの支点があったが,現在では二つに整理・統合したという。(中略)銀行の建物は鉄筋コンクリートのしっかりしたもので,地下には大金庫がある。その金庫と上物をつぶし,更地にした売却したのだ。(中略)ある支点の話では,金庫の取り壊しだけで一七億円かかったという。 なぜ,そこまで徹底して建物を壊したのか。それは,そのあとに他の金融機関,たとえば地方銀行の支店などが入ったりしないようにするためである。自行をリストラすることは,銀行業界ないしは金融業界全体のリストラでなければならない。跡地に他の金融機関が入れば元の木阿弥である。(p50)
 リストラも徹底して行われ,従業員を絞りまくったのだ。これも前述のメガバンクのCEOから,著者が直接聞いた話である。「失われた二〇年」のうちの一五年間,役員としてそのCEOのボーナスはゼロだったという。「よく住宅ローンを払えましたね」と著者が尋ねたところ,ボーナス支払いの分を退職金の前借りという形で銀行から貸してもらい,何とか返済できたということだった。(p51)
 アメリカは,徹底した膿出しは行わなかった。不動産の時価評価を徹底させることはせず,不良債権に「蓋」をしてしまった恰好だ。したがって,サブプライムの整理がいまだ終わっていないのである。(p55)
 欧州の金融機関のリストラは中途半端だと言わざるをえない。徹底してリストラをする覚悟がない。(p75)
● 中国はどうか。中国の何が問題なのか。
 仮に今,日本と上海が直接競争すればどうなるか。勝敗ははっきりしている。日本に絶対に勝てないということだけである。日本はそれだけ厳しい競争をやってきた。弱者を淘汰してきた。にせもの,手抜き,納期遅れなどは論外なのである。それからもう一つ大事なことはインフラである。日本では水道の水が飲める。(中略) 日本の場合は政府が信頼できる。社会インフラを十分整備した。それは共産主義か民主主義かの違いということである。それと同時に,大事なことであるが,民主主義の場合には有権者の意向が全ての政策に反映する。(p100)
 技術もどんどん日本,世界から,時には盗むような形で導入してきた。盗んだ技術というのは,その時点での最新である。ところが,盗まれたほうは,その技術よりもさらにスピードを上げて,新しい技術をつくる。あっという間に開きができてしまう。(p102)
 中国共産党のように言論統制で発言の自由を抑圧していたら,イノベーションが起こるはずがない。その意味で,中国共産党は自分で自分の支配の基盤を掘り崩している。(p113)
 東側では,計画経済の体制のもとですべての経済活動が,共産党の最高指導部の統制下に置かれている。経済そのものの活力が,不断に進行する「汚職と腐敗」によって急速に食い尽くされていくという悪循環の犠牲になっていった。(p113)
● 冒頭に書いた北朝鮮情勢について。
 この先の数ヵ月で,北東アジアの情勢は大きく変わる。金正恩が政権を追われる可能性は高い。金正恩の後に誰がトップに立つのかはわからない。(中略)いずれにせよ,完全に中国の傀儡政権であることは確かだ。したがって,新政権は,核開発の停止やミサイルの開発停止を宣言するだろう。(p122)
● 次は日本国内の産業動向について。まず,金融業から。
 「失われた二〇年」の間に,日本の都市銀行は徹底したリストラを断行して,世界で唯一,大型かつ長期のファイナンスに応じることのできる体力を備えるようになった。では,これからは平安一路なのかといえば,どうもそうでもなさそうだ。
 日銀はマイナス金利と並んで,日本国債の大量購入を続けている。新発債のほとんどを日銀が購入してしまう恰好となり,結果,国債の金利は下がりに下がっている。これは,収益の大きな部分を国債運用で賄ってきた多くの金融機関にとっては,まさに地獄の始まりである。銀行は当然苦しくなる。メガバンクはもちろんだが,国債依存という意味では地銀のほうが高い。したがって,地銀はこれから大変な時代がやってくる。統合・合併が相次ぐことになる。(p164)
 昭和三〇年代後半,「銀行よ,さようなら,証券よ,こんにちは」というフレーズが流行った時代があったが,現在はそれに近いような状況になりつつある。それを何もコマーシャルでながすのではなしに,誰もがそう感じとっている。これは大変化である。(p170)
 FT(ファイナンシャル・テクノロジー)の技術の飛躍は素晴らしい。ソニー銀行は窓口がない。それがこれからの日本の銀行の姿である。大銀行も新規採用を控えている。採用しても,仕事に慣れる頃には,多くの仕事場がなくなるからである。(中略)大銀行であればあるほど,支店の役割がなくなってしまう。(p171)
 銀行の行員,働いている人間は現在,全国で二五万人ほどであるが,おそらく五〇〇〇人以下になるであろう。(中略)日本全国の銀行すべてで五〇〇〇人である。(p172)
● 次に,自動車業界。
 (自動車業界には)上位四社しか残らない,と著者は見ている。四社とは,トヨタ,GM,フォード,それにあともう一社だ。そのもう一社の座をめぐって,熾烈な争いが行われることになる。今回,日産が三菱自動車を傘下に置くことによって,その最後の一社争いに顔を出した恰好である。(p177)
● 農業はどうか。現在の農業政策を改めることができれば,日本農業の前途は洋々たるものだ。
 日本ではイチゴだけで年間四〇種類も新しい品種がつくられている。少しでも甘いイチゴをつくってたくさん買ってもらおうと,農家は懸命に努力している。日本というのは,コメは別にすると,農業は競争し努力もしている。(p77)
 日本のイチゴは,摘み取りからパッキングまでロボットが導入されている。海外ではロボットで詰めたイチゴのほうが価値が高い。(p180)
 日本の農業は十分に富裕層ビジネスになるのだ。(p182)
 農作物というのはどうしても地理的な距離というのがこれまではハンディになっていたが,現在はそんなものは問題にならない。流通網は世界中に整備されている。付加価値が高ければ,海外でも飛行機で運べばいい。高く売れるので流通コストなど消し飛んでしまう。(p182)
 酪農でも機械化は進んでいる。搾乳は,今では乳牛を飼い主が連れていくのではなく,牛自身が乳が張ってくると,自ら歩いて搾乳ロボットのところへ行くようになっている。(p184)
 農地行政を変えて法人参入を認め,膨大にある無耕作地を法人に買ってもらうのが一番である。農業の機械化などは,まさに法人(=企業)ならお手のものである。農業を工業化することが喫緊の課題なのだ。日本は優秀な農業技術を持っているのであるが,それを活かせないのは規制でがんじがらめになっているからである。(p184)
 政治家や官僚たちは手厚い補助金を差配することで,農家を食いものにしている。(p185)
 農家は過剰すぎるほど保護されている。すべての補助金が悪いわけではないが,現在の日本の農業は,多額の補助金が自立の妨げになっている。安倍政権のねらいは,農協を事実上解体することで自立を促し,日本の農業の発展の芽をつくろうとしているのだ。(p166)
● その他。
 ビッグデータの解析やそのデータ保存のためには,巨大な電力が必要だということを忘れてはならない。現在,世界でビッグデータのために消費されている年間の電力の合計は,日本国内で使われる一年分の電力に相当すると言われている。したがって,このようなサービスは,技術の進歩だけでは実現が難しかったと言えるだろう。(中略)産業の発展,実用化とは,このように複数の要因がうまく組み合わさることで,はじめて実現されるものなのだ。(p155)
 パーソナルロボットや次世代自動車など,今後,技術の高度化にともなって不可欠となるのがセンサー技術である。(中略)急成長する市場の主役となるのは日本企業だ。六兆円市場のうち四割以上を日本企業が握るのではと予想されている。(p189)
● 結論はこうだ。
 世界の基調はデフレに定まった。デフレは買い手が売り手を圧倒する社会である。売り手とは政府や企業,既得権を持つ人々である。もはや売り手の意向に沿った社会を維持していくことはできなくなっている。それを強く認識し,新しい社会に適応した者だけが,今後の勝者になることができるのである。(p88)
 その勝者になるのは,日本とアメリカである。
 ものづくりで言えば,これから数年間は,人工知能(AI)や次世代自動車をめぐって,激しい覇権争いがくり広げられることになる。この二つの次代の技術競争に参加できるのは,日本とアメリカしかない。(中略)逆にいえば,これからは日米間で次世代技術をめぐる競争が行われるということになる。(p192)

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