2016年1月31日日曜日

2016.01.30 茂木健一郎 『記憶の森を育てる 意識と人工知能』

書名 記憶の森を育てる 意識と人工知能
著者 茂木健一郎
発行所 集英社
発行年月日 2015.10.31
価格(税別) 1,700円

● 「現象学的オーバーフロー」がキー概念になっている。では,それをおまえの言葉で説明してくれと言われても困る。本書を読んでもらったほうが間違いなく伝わるだろう。

● 久しぶりに読み応えがある本を読んだ感じ。スイスイスラスラと読めるものしか読んでこなかったような気がする。
 たまには,自分の容量を超える本も読んだほうがいいですよね。

● 以下に,いくつかを転載。
 意識や記憶において,普遍とは個別の総体である。個別を離れた普遍など,存在しないのだ。(p13)
 生物学上の知見は,生物のさまざまな種が長い時間をかけて進化してきたという事実の中でとらえた時に,初めてその意味がわかる。(p30)
 私たちの言語と記憶は,意識という無尽蔵な「資源」を活かすために進化してきた。私たちは皆,意識の採掘人だ。(中略)意識の資源のうち,掘り出されて活かされる資源はごく一部で,ほとんどのものはその場で消えていく。(p51)
 チクセントミハイの独創は,幸福を,受け身のものでも,所有するものでもなく,意識の流れの中で能動的にかかわることで体験する一つの状態として位置づけた点にあると言えるだろう。(p90)
 チクセントミハイのフロー理論が革命的なのは,経済学において人間行動を導く要因とされるインセンティブさえもが,自分と課題の間の壁になり得るということを見抜いている点だろう。(p97)
 オリンピックや世界選手権のような多くのことが懸かった舞台で,世界新記録を出すような最高のパフォーマンスが,緊張よりもむしろリラックスした意識の流れの中で生み出されることは,私たちの日常の中における行為規範に対しても示唆的である。(p99)
 最高のパフォーマンスをもたらすものが,苦しい努力の境地ではなく,時間の流れを忘れ,我を超えて,行為そのものが報酬となるような境地であることは,私たちの人生観に大きな影響を与えざるを得ないだろう。仕事と遊びは対立するものではない。むしろ,フローにおいて,仕事と遊びは一致する。(p100)
 クオリアは,過去に人類が到達した,断片的な「フローの頂点」が蓄積され,脳の回路の中に制度化されて定着した,痕跡であるのかもしれない。(p104)
 忘れられないのは,そんな経験をした男の子の最後の一言である。「もう一度,あの場所に住みたい」と男の子は言うのである。いつかまた津波が来るかもしれないというのに,住み慣れた,海辺の土地に戻りたいというのである。(中略)そんな土地に育まれたその男の子を,うらやましい,頼もしいと思った。(p113)
 長い旅路を厭わず,苦労を重ねて「聖地」を目指す人々の直覚の中には,場所の持つ力に対する信仰がある。 「その場所にいることの価値」こそが,人々を旅へと駆り立てるのだ。(p144)
 私たちの脳は,水槽の中に浮かんでいるのではない。脳は,身体に接続し,その中でこそ機能する。身体は環境と相互作用して,その文脈の中で「意識」を持つ。すなわち,私たちの「意識」は,「身体性」を持つことで,初めて実体化する。(p145)
 いのちは,クラウドの中をふわふわと浮く情報などでは断じてない。脳の情報をすべてコンピュータに移せば,もう一人の「私」ができるなどというのは,考えの浅いテクノロジー信者の妄想に過ぎない。(p149)
 意識は,私秘的なものだと考えられがちであるが,実際にはその本質において社会性を帯びている。自己認識は,他者の認識と双対である。(p212)
 ニーチェの思想は,高校生の私にとっては,劇薬だった。しかし,それと同時に,不思議なほど心を落ち着かせ,しっくりとくる,柔らかな考え方であるようにも感じられた。つまりは,偉大な哲学がすべてそうであるように,そこには「本当のこと」が書かれていたからだろう。(p237)
 アメリカの大学でも,面接が重視されている。面接とは,つまりは「雑談」である。日本人はペーパーテストの点数こそが「公正」であると長い間洗脳されてきたが,考えてみると,雑談ほど,その人となりが伝わり,知性が明らかになるものはないのではないか。(p264)
 人間は,忙しくなると,ついつい雑談をしている暇などない,となりがちである。そういう発想になった時点で,すでに,脳の働きのバランスは失われ始めている。(p269)
 「知性」の本質は,「狭い」ということころにこそあるのかもしれない。人口知能を待たなくても,そもそも,人間の知性そのものが,その世界における存在形態としては「狭い」のではないか。(p285)
 歩くと,世界の多様性を感じることができる。世界の多様性を感じる方法は,さまざまあるだろう。しかし,速度を落とすことは,そのうちの確実なものの一つである。(p293)

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