2015年11月29日日曜日

2015.11.26 外山滋比古 『ライフワークの思想』

書名 ライフワークの思想
著者 外山滋比古
発行所 ちくま文庫
発行年月日 2009.07.10(単行本:1978)
価格(税別) 560円

● 知識の脆弱性と,ことばの,良きにつけ悪しきにつけ,強力な作用。このふたつが説かれている。

● イギリスのパブリックスクールを素材に島国の特徴を考える。イギリスについて言えることは日本にもあてはまるかもしれない。

● 以下にいくつか転載。
 日本人はこれまで,ヨーロッパに咲いた文明の“花”を切り取ってきて,身近に飾ることを勉強だと思い,それを模倣することをもって社会の進歩と考えてきた。(中略)これでは,いかにして花を咲かすかを考える暇は,もちろんない。(p10)
 もし人生が百メートル競走なら,スタートにおける五メートルの遅れは,決定的なつまずきになろう。だが,人生をマラソンと考えるならば,出足の遅速など問題にならない。マラソンのスタートでトップに立ったからといって,誰がその人の優勝を予想するだろうか。(p18)
 まず,何もしないでボーッとする時間をもつことだ。充実した無為の時間をつくることである。これがやってみると意外に難しい。たいていの人は,空白な時間を怖れる。よほど強い個性でないと,ぼんやりしていることはできないのである。本を読むのも結構だが,読まないのもまた,きわめて大切な勉強である。(p19)
 日本の文化はだいたいにおいて若年文化だ。若い時には華々しくても,少し齢をとるとまたたく間にダメになってしまう。日本の音楽家は十代のときには国際コンクールで優勝したりするほど水準が高いのだが,二十代ではだいぶあやしくなり,三十代になるとすっかり元気がなくなる。(p21)
 経験を思いつきとを一緒にし,これに時間を加える。この時間なしには酒はできない。(中略)頭のなかにねかせておいてもよいが,この二つのことを何かに書きとめておくのが便利である。そして,時々これを取り出して,のぞいてみる。のぞいてみて,何も匂ってこなければ,まだ発酵していない。(p27)
 エリートが齢をとるとだんだんつまらない人になってくるのは,彼らが一筋の道を折り返しなしに走っているからだろう。 前半の四十五歳くらいまでは,なるべく個性的に,批判的に,そして自分の力で生きていくのが,その人間を伸ばす力になるが,折り返し点をまわった人間は,もう小さな自分は捨て,いかにして大きな常識をとり込んでゆくかを考える。(p30)
 ことばで考えるのは技術的である。根本のところは体で考えるのでなくてはならない。体を動かさずに頭だけ働かすことができるというのは迷信であろう。(p39)
 横のものを縦にすることさえ億劫がるような人間が,ダイナミック(動的)な思考などと言う。空虚なことばの乱舞。(p39)
 近代において,比喩は,ほかに描写の方法がないとき,やむを得ず援用されるもので,できれば避けたいものと考えられている。(中略)こういう常識は発見の心理にいちじるしく不都合であるといわなくてはならない。(p61)
 ものが存在すると,そのものはそのかげにあるものをかくす。ものと同じように,知識もそのかげにあるものを隠蔽する。それで知識が多くなると,それだけものが見えにくくなる。(p66)
 発見するには,成心があってはならない。何とか発見してやろうというような緊張があってはならない。かたくなな心ではだけである。心を半ば空しくしている必要がある。(p72)
 自分のプライベートな利益のために,パブリックなものを利用しようとする考えは,いついかなるときも,卑劣である。(p175)
 役に立つ教育といったケチな目標でなされることが,子供の魂に火をつけるわけがない。(p176)
 デパートで正札千五百円の下着があまり売れないから,二千五百円に正札をつけ替えたら売れるようになった。品物を買っているのではなく,値段を買っている。(中略)高級品のイメージを買いたいのである。(p181)
 われわれは似たりよったりということを好まない。すこしでもほかの人たちと違ったことがしたい。賢くなりたい,美しくありたい,ひとより多くの収入がほしいと思う。これがまさしく“常民”である証拠だ。常民はだいたいにおいてどんぐりの背比べである。似たりよったりである。だからこそ,すこしでも違うところを見せたがる。逆にそれだけ一般的価値観につよく支配されていることになるのだ。(p195)
 どんなに巧妙なCMでも,リピートが不足していたのでは効果は上がらない。なぜか。繰り返しによって,表現が固有名詞に近い性格のものになるからである。(p218)
 人を傷つけると言う。実際の危害を加えなくても,ことばひとつで相手に当分立ち上がれないくらいの打撃を与えることができる。(中略)ことばの力はこんなにもつよいものである。(p223)
 わたしたちにとって本当の幸福とは,いったい何か。(中略) 心の楽しみがなくてはいけない。つまり,人からほめてもらうことだ。人をほめること,これがいまの世の中でいちばん欠けている。(p229)
 若さを保つにはどうしたらいいか。いちばん簡単なのは,新しいことばを毎日すこしずつ英語でもフランス語でも,あるいは朝鮮語でもマレー語でも結構。(p231)

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