2015年11月16日月曜日

2015.11.09 夢枕 獏 『秘伝「書く」技術』

書名 秘伝「書く」技術
著者 夢枕 獏
発行所 集英社インターナショナル
発行年月日 2015.01.31
価格(税別) 1,100円

● タイトルに惹かれて読んでみた。こういうものは真似しようとしてできるものではない。
 が,実績ある人が書いたものは,一般知がそこここに落ちていて,それはそれで参考になる。参考になるという言い方は不遜かもしれないけれど。参考にできるかどうかはこちら側の力量にもよる。

● しかも,優れた人が書いたものは,読みものとしても面白い。本書はまさにそれ。一夕の歓を尽くすことができる。ああ面白かったという上質の消費としての読書ができる。
 読書なんて消費でいいと思っている。というより,自分を高めるだの知識を得るだのっていうのは,下賤な感じがする。

● 以下にいくつか転載。
 小説のアイディアを思いつくと,ぼくはカードに書いています。(中略)一つのカードに書くのは,一つのアイディアと決めています。時と場合によりますが,基本的に思いついたままに,脈絡とか使えるとかを気にせずに,とにかくメモしていくんです。 ぼくは小説を書く前に必ず取材に出かけるのですが,取材のときもカードを使います。(p5)
 書かない日というのは基本的にありません。サラリーマンの土日のような日はない。好きなことをやっているわけですから,休みたいとは思わないんです。(p14)
 「書くぞ」と気合を入れて机に向かうことは,若い頃はありましたけれど,この頃は少なくなりました。やる気をつくってから書くのは,時間がかかってしまうんですね。そうではなくて,机に向かって書くという行為によって,やる気が湧いてくる。「やる気」があるから「やる」のではなく,「やる」から「やる気」が出てくるんですね。これは書くことに限らず,何かを長く続けていくには必要な姿勢ではないかと思います。(p14)
 小説に関連する資料を読む上でいちばん重要なのは,「何がわかっていないか」を知ることです。当然ながら,本に書いてあるのはわかっていることで,わかっていないことは書いてない。文献資料などを読み込んでいくうちに,どこまでがわかっているのかがわかるようになる。容易なことではありませんが,わかっていることと,わかっていないことの間に線を引くことがとても重要です。(p29)
 ぼくの場合,大きなアイディアはわりと出てくるのですが,細部にいくほどアイディアを出すのがしんどい。そんなときどうするか。 まず「死ぬほど」考えるんです。(中略)考えるべきことだけに集中して必死に考えます。家にソファがあるので,そこにごろんと寝転がって,一時間でも二時間でも考えます。(中略)考えに考えて,そのときのぼくの感覚を言葉にするならば,「脳が鼻から垂れるまで」考える。 こうやって考え抜くことで,「神を生む力」が得られるんです。言い換えれば,小説のアイディアを生み出す力ですね。(p38)
 脳が鼻から垂れるまで考えても,うまくいかないときがあります。(中略)そんなときはどうするかといえば「とにかく書く」。これが最終兵器です。 とにかく書く,というのは素晴らしいんです。何が素晴らしいって,一行書くと,次の一行が出てくるんですね。(p40)
 書くことによって自分を物語世界のなかに入れていくんです。そうすることで,外側から物語を構築しようとしていたときには思いもよらなかったこと,あるいは見えなかったことが,浮かび上がってくることがあるのです。(p42)
 小説の書き方次第で,複数のラストを書くことができるはずだと,ぼくはいま考えているんですね。 何のためにこんなことをするかと問われれば,答えはしごく単純,「面白そうだから」。面白いことを書きたい,これはもう,作家の生理的な欲望です。もう一つ言えば,新しいものができるかもしれないから。特定の人だけのために書くやり方も,ネットで読者の注文を取り入れていく方法も,他者の声を物語に反映させていくという面があります。これによって,ぼくという一人の作家の殻を破れるかもしれないという期待があるのです。(p61)
 小説に限らず,ものを生み出そうとする人には,誰もやったことのないことをやってやろうという野心があってしかるべきで,逆に言えば,そういった野心なしに,面白いものは生まれ得ないとぼくは思っています。(p81)
 将棋では,この手を指したら確実に負けるという手を「悪手」といいます。対局をしていると,どんな手を指しても「悪手」になりそうだという局面が訪れることがあるんです。これが勝負をしてはいけない局面ですね。そんなときに打つのは「紛れの手」です。これは言わば,何も指さないで相手に「どうぞ」とパスをするような手。(中略) 小説でも「紛れの手」を打たなければいけない局面はときにやってきます。そんなときは勇気を持ってストーリーを前に進めないようにしています。(p103)
 長い作家生活のなかでぼくが必要だと感じているのは,一つ一つの作品を完結させていくこと。年月をかけてでも終わらせる作業をしていかないと,ステージが上がっていかないんですね。(p105)
 ぼくをさまざまなジャンルに向かわせたのは,同じことをしていては書けなくなるという恐怖感です。(中略)いくつもの引き出しを持つことで,こっちがダメなときはこっちが助けてくれる,というリスク分散が可能になりました。(p117)
 考えたアイディアは決して無駄にならない,むしろ,あるとき無駄だと思われたアイディアが,ひょんなところで我が身を助ける,ということを学んだわけです。だからアイディアは,使えるかどうかは二の次で,まずはどんどん練って,どんどん出していくのが良いとぼくは思っています。(p121)
 描写は訓練すればするほどうまくなります。一つの場面をどれだけでも長く描写できるようにもなるし,もちろん長い描写が良いわけではなく,細部に目が届くようになると,おのずと無駄な描写がなくなります。(p125)
 表現力を付けるためには,才能プラス,面白がる心と訓練,いわば真似です。小説に限らずさまざまな表現に接して,面白がる心が自然に育つというのがいいと思います。(p128)

0 件のコメント:

コメントを投稿