2015年11月11日水曜日

2015.11.09 中川右介 『すっきりわかる! 超訳「芸術用語」事典』

書名 すっきりわかる! 超訳「芸術用語」事典
著者 中川右介
発行所 PHP文庫
発行年月日 2014.11.19
価格(税別) 800円

● 美術,音楽,演劇,映画の4分野で用いられる用語を解説。こういうことができる人は,著者のほかに何人いるんだろう。

● ガチガチの専門家的解説ではなく,ときに茶化したり,斜めから見たり,闊達自在な説明で,したがって腑に落ちることが多い。
 厳密にやるとそこから抜け落ちるものが多くなって,かえって不正確になるってことがあるんじゃないだろうか。

● その分野の専門家が読んでも頭の整理ができるんじゃないかと思う。ま,ぼくは専門家じゃないので,このあたりは想像で言うんだけど。

● 以下に転載。
 音楽も美術も,文字だけで説明できないものを描くために存在するものなので,それを文字だけで説明するのはかなり無理があります。(p4)
 バロック音楽の依頼主は,教会や宮廷でした。曲のイメージとしては,優雅,典雅,儀礼的なもので,人間の内面を表現し始めたバロック絵画とは異なり,表層的です。「天から聴こえてくる」ようなものが多いので,一時期ヒーリング・ミュージックとしても流行しました。中身がないと言えば,ない。(p37)
 美術における写実主義=リアリズムは,自然や人間の顔などをありのままに,つまり写真のように描くことではなく,「社会のありのままの現実」を描くことです。(中略)芸術家の社会参加であり,ジャーナリズムと芸術の融合でもあります。そういう絵ですから,美しいものばかりではありません。美術が美しくなくなる,その始まりとも言えます。(p61)
 二十世紀初頭に,ロシアの作曲家ストラヴィンスキーの作風が,プリミティヴィズムと呼ばれています。《春の祭典》などがそれで,強烈なリズムの音楽で,たしかに野蛮というか原始的です。それが新しく,革命的でした。それまでの西洋音楽は周期的なリズム構造だったのが,不規則になり,次に何が出てくるのか予測がつかない。そんな音楽でした。音楽においては,原始主義が現代音楽へと直結します。(p77)
 オペラは,歌で表現するので,演劇ではありますが,あまり複雑な会話はできません。話の筋は極めて単純なものが多く,あらすじだけ読んだのでは,何が面白いのか分からない作品も多いわけです。その陳腐なストーリーを,いかに大げさに盛り上げて感動させるかが,上演する側の腕の見せどころとなります。(p95)
 批判するのは簡単ですが,ウェルメイド・プレイを作るのには,ストーリーの卓越した構成力,セリフの面白さが必要とされるので,才能が必要です。「分かる人にだけ分かればいい」という,高尚な芸術志向の演劇とは違い,「誰にでも楽しめる演劇」のほうこそ,難しい仕事です。(p167)
 日常会話と同じように発声したのでは,客席まで声が届かないし,聞き取れません。いかに「日常と同じ」ように見せるかという演技術が必要となります。そのため,日本では独特の「新劇みたいな話し方」という発声と抑揚が生まれ,俳優たちがリアルに演じれば演じるほど,嘘っぽく見えるという皮肉な事態となりました。(p174)
 お金持ちは劇場の一階の両側にある桟敷席や,前のほうの一等席で見るわけですが,そういう人たちは社交として来ていることが多く,本当に芝居の好きな人は,安い大向う(劇場の舞台から見て正面の,最上階)で何度も見ます。だから,ここにいる芝居好きの人たちが感心するような名演技を,「大向うを唸らせる」といいます。(p210)
 二十一世紀初頭になると,「膨大な過去」を目の前にして,芸術家たちは,もはやオリジナリティなどありえないと考えるようになり,シミュレーショニズムに到達します。(p266)
 彼(セザンヌ)は一枚の絵が複数の視点を持つ技法を編み出しましたが,ピカソはそれを推し進め,視点の移動という「時間」も,取り入れました。あるモノを最初は正面から見て,次に右にまわって,それからうしろにまわって見て,さらに上からも下からも見る--それぞれの場所で見えたものを,一枚の絵に描き込んでみたのが,ピカソの絵だったのです。(中略) キュビズムは衝撃を与えましたが,驚かれるのは最初だけなので,いつまでもやっていても仕方がない。ピカソが偉大だったのは、キュビズムを生み出しながらも,世間が驚いているうちに,あっさりやめてしまい,次の段階へ行ったことです。(p269)

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