2015年11月11日水曜日

2015.11.08 吉行淳之介 『やわらかい話 2』

書名 やわらかい話 2
著者 吉行淳之介
編者 丸谷才一
発行所 講談社文芸文庫
発行年月日 2008.03.10
価格(税別) 1,400円

● 若い頃に吉行淳之介さんの作品は(たぶん)すべて読んだ。小説,エッセイ,対談などすべて。当時から対談の名手と言われていて,『軽薄対談』とか『恐怖対談』など読みふけったものだ。
 その数多い対談から丸谷才一さんが編集して,講談社文芸文庫から2冊出版されている。本書はそのうちの1冊。

● 対談の相手も各界(ただし,政界を除く)の第一人者から,女優やタレントまで種々。話題も文芸論から女性論,世相の片隅をつついて話にするものまで,様々。

● 以下に,いくつか転載。
 結局,男って婦人のためにものを食ってるんですからね。ぼくは食べるたんびにそう思う(藤原義江 p93)
 藤原 一人くらい,こいついやなやつだなという女性がいてくれたら,こんなに苦労しなくてもすんだと思いますね。とにかく,一人として悪い女に会わなかった。 吉行 ぼくもそうです。しかし,おそらくそのなかの何人かはすごく悪い女ですよ。 藤原 やっぱりね。 吉行 あなたに会うと,いい女になっちゃうんですよ。(p99)
 色好みの女性ほど,いくらなじんで,長いことつき合っていても,床へ入る瞬間にフッとはじらいを示すというんです。相手を意識しての演技じゃなくて,自分自身に対するはじらいですね。(p147)
 これは,さるブルー・フィルムの制作者に聞いたんだが,自分以外の人格にならないと立たないというんだよ。わざとつけ鼻をしたり,メガネをかけたりして。あれはヤクザが顔を見られたくないから顔をかくすんじゃなくて,別人格になるためにやるんだそうだ。(p151)
 『資本論』を読んだって,階級性の実感なんて,ピンともスンともこない。テクニカルタームではしゃべりますよ。だけれども,『マイ・シークレット・ライフ』を読むとね,いわゆるゼントルマン階級と下の階級とのあいだに,いかにいろんなもののちがいがあったかということがね,一世紀へだてた極東の島国のわたしですけど,おぼろげながらのみこめる。(開高健 p156)
 凝っては思案にあたわずというでしょう。かえってそれがいじくり回したために演出効果の失われる方向にいっちゃう。素人の手品は,これでもか,これでもかというやり方をするわな。(アダチ龍光 p270)
 一つの単語だけぷつっとやると,かなりのことまで通じる。ブロークン・イングリッシュというのがあって,これはぽきぽき折れるわけだけど,ぼくは一つだけぷつっとやるスポット・イングリッシュ,スポット・フレンチ。(p288)
● 渡辺淳一さんと丸谷才一さんの「解説対談」が巻末に。吉行さんがどれだけモテたかという話。
 このお二人もすでに鬼籍に入られたわけだが。
 銀座のバーのいいところは,何といってもお客が絡まないこと。(中略)吉行さんも,銀座のいいところは客種なんだみたいなことを言ってましたね。(丸谷 p311)
 吉行さんの亡くなったあと,何人かの女性が吉行さんのことを書いたじゃないですか。僕はああいう女性は,嫌いというか,心外なんだけど・・・・・・。(中略) 吉行さんと付き合っていた虚名というか,それを自慢しているだけで。本当の意味で深くない女性じゃないのか,ということを言いたいわけで。(渡辺 p314)
 丸谷 吉行さんはね,宮城(まり子)さんのあのすごい生命力,あれに惚れたわけでしょ。たぶんそうだと思うよ。ところが,生命力に惚れるくらいだから,そういうヴァイタリティーは吉行淳之介にないんだね。 渡辺 いや,吉行さんにじゃなくて,男にないんですよ。(中略)男という性には,そもそもないんですよ。 丸谷 そうだね。女はすごいんだな,そこが。(p316)
 渡辺 しかし吉行さんはほんとに,どの写真見てもいい男ですね。 丸谷 いい男だったし,人柄が立派だったね。いい男で人柄が立派だと,小説はへたなもんだけど,小説もうまかったよ。三拍子揃うっていうのは,かなり珍しいんじゃないのかなぁ。(p317)
 やっぱり,歴史や時代ものは楽なんですよ。すでに生きた人を書くんですから。要するにモディファイで,それに比べると現代の恋愛小説を書くのはしんどいんですけど,一般的に評価は低い。(渡辺 p317)
 丸谷 吉行さんと対談をなされて,彼のホストぶりっていうのか,話術っていうのか,どんなふうにお感じになりました? 渡辺 僕は,話術なんて全然感じなかったですね。術が感じないぐらい自然だったですよ。 丸谷 そうそう,そういう人ですよね。 渡辺 そこがうまさというか。なんとなくしゃべらせられた感じで。(p323)
 吉行さんに会って,ああ,そうかと思ったことがいくつかあって。一つは「僕は女の人称で小説を書かないの,女がわからないんだよ」って。「だからあくまで,自分の目に映った女しか書かないの」って言われたんですよ。(渡辺 p324)
 瀬戸内寂聴さんから聞いた話だけども,瀬戸内さんが宇野さんの色ざんげをいろいろ聞いたんですって。それで,具体的に名前がいっぱい出てくる。ついに出てこない名前があったんで,瀬戸内さんが「小林秀雄とはどうだったんですか」って聞いたんだって。そしたら宇野さんが,恥じらって「わからない」と言う。(中略) 「わからないってどういうこと?」,瀬戸内さんが重ねて聞いたら,「何しろ雑魚寝だったから」って言ったんだって。そういうことをやってるわけですよ(笑)。だから,論理も非論理もあったもんじゃないんだな,そうなると。(丸谷 p326)
 吉行さんて人は,「わからない」ということをよく言う人でしたよね。僕が「どうして主人公は小説家ばかりなの」と聞いたことがあるの。そうしたら,「それ以外の職業はおれにはわからない」。(丸谷 p328)
 丸谷 吉行淳之介さんって人は,感性はものすごく鋭かった。それはもちろんそう。しかし,ずいぶん頭のいい男だったと思いますよ。 渡辺 それは,ベーシックにあった上でのことでしょうね。 丸谷 そうですね。その両方があったから,あんなにうまく対談もできたんだという気がするんです。 渡辺 あれだけソフトで,人をそらさないやさしさっていうのは,よほど頭がよくないとできないですよ。(p329)

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