2015年9月21日月曜日

2015.09.17 長谷川慶太郎 『2016年 長谷川慶太郎の大局を読む』

書名 2016年 長谷川慶太郎の大局を読む
著者 長谷川慶太郎
発行所 李白社
発行年月日 2015.09.30
価格(税別) 1,600円

● 続けざまに長谷川さんの新著が出た。今回は,上海株の暴落と天津の爆発事故が織りこまれている。『2016年 世界の真実』とは色合いの違う著作になっている。

● 世界経済,世界情勢を扱いながら,ミステリを読むようなワクワク感が味わえるのはどうしてなのか。最期の謎解きまで用意されているからというのもあるけれども,細かいデータの渉猟に抜かりがないからだろうと思う。
 自身の世界観とか宗教観とか文明観とか,「観」の付くような粗雑なモノサシを一切用いないで,データとその組み合わせで語っているからではあるまいか。

● 本書の結論は「まえがき」に述べられている。
 今後もアメリカを先頭にして日本,ドイツが世界経済を引っ張っていくという構図には変わりがない。この三ヵ国の経済基盤に揺るぎがない以上,世界経済の先行きは非常に明るい。(p5)
● 国内の株式市場について,次のように言う。
 株価が急落し年内にもう一回大きな押し目が来ます。(中略)二度目の押し目の前に日経平均は元に戻るどころか,もっと高くなります。このときに持っている株を売って現金に換えておけばいいでしょう。(p5)
 マスコミはマッチポンプであって,上海株の暴落と日本株への打撃を結び付けて報道することで視聴者や読者の関心を集め,そうしたことによって経営を成り立たせようとするのだ。証券会社も手数料が稼げるので株価の乱高下を歓迎している。したがって日本の個人投資家が株で儲けたいのならマスコミや証券会社のいうことに惑わされてはいけない。(p18)
● 中国に対する見方は一貫している。滅びへの道を着々と歩んでいるというもの。
 天津での大爆発事故はなぜ起こったのか。事故なのか,偶発的な出来事なのか,あるいはテロリストによる犯行なのか。さまざまな説がありますが,私はテロだと見ています。では誰がやったのかというと,独立をめぐって中国政府と激しく対立している新彊ウイグル自治区のウイグル族です。それを支援しているIS(イスラム国)が,カザフスタン国境を通じてウイグル族に武器・弾薬を提供しています。(p3)
 上海株に流れ込んできたのは,それまで不動産に回っていた資金も多少はあるものの,大半は個人投資家が借金してつくった資金だ。余った投資マネーではなく命ガネであって,それだけに事態は深刻である。(p21)
 人民解放軍は各軍区も海軍も空軍も習近平政権の裏をかくことばかり考えている。(p52)
 経済の動きをも計画的にコントロールできると考えるのが社会主義だ。計画経済は社会主義の別名ともいえる。 一方,株式市場は本来,多くの人々が株を自由に売り買いするから,つまり一人の人間だけで売り買いするのではないから,上場されている各銘柄の値動きはそれぞれバラバラになる。裏を返せば,誰か一人の意思で株価をコントロールすることはできない。(中略) 要するに株式市場に計画経済を持ちこんだこと自体が論理的な矛盾なのである。(p56)
 今の中国の国民は公的には中国が北朝鮮を切ったことを知らされていないのだが,北朝鮮が崩壊するとそれがわかる。となると,なぜ中国は血の同盟を無視する行動を取ったのかとまず疑問を持ち,しかるのちに北朝鮮を救うだけの力が中国にはないことに気が付かざるをえない。(中略)そういうことで中国国内では共産党政権に対する反対運動が一気に広がっていく。 北朝鮮が潰れれば中国も持たない。(p81)
● 北朝鮮はすでに死に体になっている。
 北朝鮮の状況は切迫してきている。日本ではあまり報道されていないが,二〇一五年は北朝鮮が一〇〇年に一度という最悪の大干魃に見舞われたからだ。(p61)
 二〇一五年四月,金正恩は軍事外交を担ってきた人民武力相の玄永哲を反逆罪で銃殺処刑した。この粛清はクーデターがあったという証拠だ。そればかりか,朝鮮人民軍が金正恩と距離を置くようになっているという示唆でもある。(p63)
 粛清を恐れた朝鮮労働党,北朝鮮政府,朝鮮人民軍などの幹部が海外に出る機会を利用して亡命するというケースが二〇一五年になってから相次いでいる。(p64)
 北朝鮮は粛清とともに幹部の亡命が続いて国家としての正常な機能を失いつつある。となるともはや拉致被害者を含む日本人の抑留者だけをピックアップすることもできないだろうし,再調査報告を出すのさえ無理になってきているのだろう。 日本政府は,再調査を終えていないとする北朝鮮に対して遺憾の意を示したものの,北朝鮮への制裁強化という強硬路線は取らなかった。日本政府もすでに北朝鮮が死に体であることを知っていて,強硬路線によって自ら引導を渡すことを避けたのだ。(p65)
● 北朝鮮が潰れれば,中国にはもちろん,韓国にとっても非常事態である。
 南北統合は韓国経済にとっては他国の救援がなければ心中に等しいのである。(p68)
● ではヨーロッパはどうか。ドイツが覇権を確立しており,これはこのまま続く。
 EC(ヨーロッパ共同体)もEUもユーロもドイツ封じ込めを最大の目的としてつくられた。だが,現実にはヨーロッパ諸国の思惑は完全に裏目に出て,ドイツを封じ込めるどころか,ドイツによってヨーロッパが逆に封じ込められたという結果になった。特に単一通貨ユーロを通じて今やユーロ圏はドイツの植民地になってしまったといっても過言ではない。(中略)ユーロ圏は人口三億三〇〇〇万人のドイツの領土なのである。(p192)
 ドイツは国際貢献のつもりでユーロ圏を守ってきたわけではない。通貨ユーロはドイツに対して何にも代え難いメリットをもたらしてくれるからだ。そのメリットはまず,ユーロ圏内での貿易であれば為替レートの影響を受けないということだ。(中略) もう一つのメリットは,ユーロ圏以外の国々との貿易においてもユーロであればドイツの国力に比べて為替レートを低く保つことができるということだ。(p193)
● ロシアの先行きも五里霧中。
 国際社会はバラバラに見えるが,遵守すべき共通した原則があって,それを破った者に対しては厳しい。原則とはたとえば国家主権である。ロシアはクリミア併合でウクライナの国家主権を侵してしまった。今のところロシアも面子があるから,やせ我慢しているけれども,そろそろ限界だ。背に腹は代えられなくなる。といって戦争を起こす力もない。(p221)
 ロシア経済には依然としてソ連時代の共産主義における統制経済の残渣が残っている。ロシア国民の多くの意識も共産主義から完全に抜けきっていないので,自由主義経済へと移行するためにはロシアは少なくとも一〇年間は苦しまなくてはならないだろう。共産主義は捨ててもその精神から逃れるのは大変である。(p221)
● 原油価格はさらに下がる。なぜなら,イランが経済制裁を解かれるからだ。中東の大国イランの雇用が改善されれば,テロリスト集団も消滅に向かう。
 イラン石油相のいう通りならイラン産原油の輸出は二〇一六年には倍増して他の産油国との輸出シェア争いが激しくなる。これはまた原油市場における長期的な供給過剰に拍車をかけていく。とすれば原油価格もこれからさらに下がるのは明らかだ。(p110)
 経済制裁のためにイランがインフレに苦しんでいるということはそれだけ物不足であり,潜在的な需要も大きいということだ。人口七八〇〇万人という市場の巨大さに加えて潜在的な需要も期待できるなら,今後,世界中の外資企業もイランに触手を伸ばしていくだろう。(p111)
 IS(イスラム国)のようなテロリストの武装集団は,貧しい者や失業者をリクルートしてテロリストに仕立てるのだから,貧しい者や失業者がたくさにるとそれだけテロリストも多くなる。つまり経済的な衰退のためにテロリストが多数派になってしまうのだ。逆にいえば中東で経済的な繁栄が生まれると貧困が減って就業者が増えていくからテロリストは少数派になる。(p112)
● 日本はどうか。総体としては順調に推移する。もちろん,個別企業を見れば問題を抱えたところもあるけれども。
 キャノンは二〇一八年までに国内工場でのデジタルカメラ生産をロボットの導入によって完全自動化する計画だ。この背景には単なる人手不足ももちろんだが,熟練工が年々足りなくなってきたことも大きい。逆にいうと,これまで熟練した労働力を必要とする組み立て作業でもロボットでこなせるようになってきた。(中略) 増産体制を整える目的もある。ロボット化に成功すれば,人件費の安い海外に進出しなくても国内での生産コストが下げられるので国際競争力も高まっていくのはいうまでもない。(p140)
 一九六〇年代までであれば日本の大企業でも粉飾決算は珍しくなかった。しかし現代では粉飾決算は言い訳が通用しない犯罪だ。東芝の旧経営陣はその認識が乏しかったのである。(p143)
 新銀行東京については最初からやるべきではなかった。金融業の大原則は「天気なら傘を貸し,雨が降ったら傘を取り上げる」というものだ。性善説に立っている行政にそんな大原則を貫けるはずがない。貸し渋りの救済のために行政が銀行をつくったことがそもそもの間違いだったのである。(p154)
 居酒屋大手のワタミの場合,社員の自殺で遺族から訴えられ,系列の介護施設でも死亡事故が発生した。そのためインターネットの書き込みやマスコミ報道でブラック企業のレッテルを貼られてしまった結果,ブランド力が落ちて居酒屋の客離れが起こり,居酒屋の売上高は三年間マイナスで二期連続の最終赤字となった。(中略)このワタミの事例はブラック企業と見なされることがいかに企業経営に響くかという見本でもある。(p162)
● その他,いくつか転載。
 冷戦の終結は人類に非常に素晴らしい成果をもたらす。世界の人口は七二億人だが,東アジアにはその約二三%の一六億人が住んでいる。この膨大な人口を持つ地域は多くの点でバラエティにも富んでいる。宗教や言語は多種多様であり,各地域では長い歴史を通じてさまざまな文明・文化が培われてきた。だから,それらの文明・文化が直接ぶつかり合うことできわめて強い知的な刺激も生まれる。この刺激を活用することによって東アジア地域はものすごく発展していくだろう。(p84)
 これからの日本企業は基本的に地域を限定して商売をするような発想を持ってはいけない。たとえば東南アジアやインドは相手にするが,欧米には出て行かないといった考え方は時代遅れだ。つねに世界市場を相手にして商売をしていくという発想が欠かせない。(p130)
 ロボット化では別の面で大きな問題が生まれてくるだろう。つまり,簡単な作業はロボットが担うことになるので,いくら人手不足であっても簡単な作業しかできない人間には仕事が来なくなる。(p141)
 私も企業経営におけるダイバーシティには賛成で,日本文化が世界を制覇するなどと思ったことは一度もない。日本企業にももっと外国人の役員を入れるべきだ。むしろ社内でいろいろな価値観をどんどんぶつけあわないと,企業も品質の高い商品やサービスを提供していけない時代になったのである。(p148)
 マイナンバーは公務員制度改革と結び付いてこそ価値がある。というのも,マイナンバーの利用によって行政事務が簡素化され,その結果,公務員の仕事が減って公務員の数も大幅に削減できるはずだからだ。(p168)
 今はまだ,子供を安定した公務員にしたいという親も少なくないが,公務員がリストラされる時代になるとそんな考え方は通用しなくなる。好きだから公務員になりたいというのならいいが,安定しているから公務員を選ぶという発想は間違いだ。(p170)
 学生が文系の学部や大学院で学んでいることは,今のような情報化時代には自宅にいても勉強できるようなことばかりだ。卒業資格はさておき,学者を目指さないのならわざわざ学部や大学院に通う必要もないだろう。一方,理系のほうはやはり実習や実験が欠かせないから,そのための設備等を持っている学部や大学院の役割は重要だ。(p171)
 民法のように法律が時代に即して長い間改正されてこなかったのは立法に携わる国会議員のせいなのか。つまり政治の怠慢なのかということだが,そうではない。実は司法の怠慢なのである。(p173)

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