2015年5月30日土曜日

2015.05.23 犬丸一郎 『帝国ホテルの流儀』

書名 帝国ホテルの流儀
著者 犬丸一郎
発行所 集英社新書
発行年月日 2012.02.22
価格(税別) 700円

● 帝国ホテル云々より,自身の自叙伝といった趣。もちろん,ライターさんが入って書いている。ちょっと取材が足りなかった部分もあるか。もう少し突っ込んで欲しかったと思えるところもある。
 もっとも,別な著書ですでに語られているから,この本ではあえて簡略にしたのかもしれないけど。

● 著者は何というかセレブの出。縁戚や知り合いに元華族っていうのが多いですな。職業がらもあって,知り合いも多彩だったのだろう。そのうちの何人かに言及している。
 まず,小佐野健治氏。彼は著者の上司というか,帝国ホテルの会長で大株主だったから,いやでも付き合わざるを得ない。

 小佐野氏はあまり帝国ホテルに顔を見せませんでした。しかしやって来る時は,私の執務室に突然やってきて,あれこれ話し始める。思いついたら即行動の性格で,相手の都合おかまいなしに電話をかけてきて,出られないと怒り出すせっかちさには困りましたが,経営者としては非常に優秀でした。(p87)
 ポジションに就いた者にはつべこべ指図せず,責任を与えて任せる。その方針が私と一致していたことが,最後までネガティブな感情を抱かなかった最大の理由かもしれません。(p87)
● 白洲次郎氏も登場する。
 クラブハウスの洗面所のタオルには,「持ち出し禁止」の札がかかっていたのですが,首相になる前の田中角栄さんがそれを拝借してコースに出たことがあります。白洲さんは「角栄! お前日本語読めないのか」と怒っていました。そこですぐ謝ることができる素直な角栄さんを白洲さんは可愛がっていたものです。(p142)
 強く印象に残っている,白洲さんの言葉があります。私が社長になるちょっと前,白洲さんが私のオフィスにやって来て,こう言ったのです。
 「そのうち社長になるんだろ? いいか,地位が上がれば役得ではなく“役損”ということを覚えておけ。上の人間がおかしなことをすると,下もそれを真似しようとするからな。むしろ,役損のほうが多いんだ」(p142)
● ほかに,いくつか転載。
 一般の企業は「わが社はこれだ」という強みを持って,どこか一点が突出していれば評価されます。しかしホテルは満遍なく,ムラなく良いことが求められます。(中略)何かひとつでもお客様にとって不満足なことがあると,そのお客様は二度とホテルを使ってくださらないかもしれない。一カ所切れた鎖は,もう鎖として評価されません。
 つまり百マイナス一は九十九ではなく,ゼロということになってしまうのがホテルのサービスなのです。(p8)
 私は(中略)深々と頭を下げることはしません。デンマークやベルギーの国王がお見えになった時も,歓迎のひと言の後お辞儀をしないで,握手しながら相手の目をみました。そちらのほうが「よくいらっしゃいました」という気持ちが伝わるからです。(p18)
 お客様から聞かれてもいないのに,従業員が自分から押し付けるのはご法度なんです。(中略)受け身のように見えて,陰で考えうる最大限の努力をしている。これがいいサービスの本質です。それは自分の知識を声高にアピールするウエイターの対極にあると言っていいでしょう。(p23)
 定められた通りのサービスを淡々とする。やりたいことを持つ。でもそれをじっと我慢する。聞きたいことをあえて聞かない。ホテルマンにはこのような行動が求められます。基本にあるのは,相手に対する慎みです。(p61)
 運ばれてきたメロンに家内がスプーンを入れた時,どこにいたのかマネージャーが飛んできた。「申し訳ありません。このメロンはまだ若いようでした」
 日本のホテルでは,これほどの気配りと目配りができるスタッフにはなかなかお目にかかれません。日本の場合は,人的サービスというものを,どちらかというと数で補う傾向があるからです。一方,アメリカでは少ない人数で,与えられた仕事を見事にこなしている。(p57)
 私が知りたいのは,本人の地金だけなのです。大学の成績がどうだったか,将来会社に入って何をやりたいかはあまり興味がない。(中略)
 社員育成と言いながら,ある意味,育てていないのかもしれません。(中略)
 もしかすると人を育てること自体,驕った発想なのかもしれない。他人ができるのは,人の素材を見抜いて,環境を与えることぐらいなのではないでしょうか。(p97)
 身の丈以上の財産を所有していても詮無い気がします。必要としている人がいるなら,与えてしまえばいいのではないでしょうか。
 かつて私はもらったから,今度は人に与えた。私からもらった人は,また人に与えると考えたい。物事はそうやって循環していくのであって,自分だけ貯め込もうとしてはいけません。人に与えなければ自分には何も還ってこない,という教えは真理である気がします。(p146)
 ホテルマン時代は仕事に手を抜かず,その日その日,懸命に働いてきました。しかしお客様もいろいろですから,どうしたって不愉快な出来事に遭遇することがあるし,理不尽なことを言われることもあります。
 しかしどんなに嫌なことがあっても,心の中のムカムカした気持ちを持ち越さないように心がけていました。それを引きずったまま,次の接客サービスに移っては,関係ない人まで巻き込んでしまうことがあるからです。そうやって心のスイッチを素早く切り替えていた習慣が,今,後悔のない人生につながっているのかもしれません。(p166)

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