2015年1月15日木曜日

2015.01.15 伊集院 静 『それでも前へ進む』

書名 それでも前へ進む
著者 伊集院 静
発行所 講談社
発行年月日 2014.12.04
価格(税別) 1,200円

● 「車窓にうつる記憶」というタイトルの連載エッセイがメイン。なので,本書に最も多く登場する語彙は「美眺」。作者の造語だろうか。
 たまにはこういう本を読んで,心の洗濯をすべきだ。心の洗濯をして自分の中の何かが変わるか。変わるかもしれないけれど,その可能性がゼロではないけれど,たぶん,本を読んだくらいでは何も変わるまい。
 しかし,書き手とすれば「言葉の持つ力を信じている」(p161)から書く。どこかに言葉の力を恃むことがなければ,職業作家は成立しないものだろう。

● 高校の恩師の三回忌に出かける話が出てくる。学校の教師に限らず,友人や先輩の墓参りや法事にしばしば出かけている。
 それだけ深いつき合いをしてきたということだろう。情が細やかで濃厚な人づきあいをしてきた。それが作者の大きな財産になっているに違いない。

● 『なぎさホテル』で描かれているのは,ほぼ実話のようだ。見も知らぬ男(ありていにいえば,どこの馬の骨か分からぬ男)を自分のホテルに数年間も滞在させる,もちろん宿泊代を取らないで,人がいるというのも驚きだけれども,人をしてそう思わしめる何かがあったということだろう。
 そのことと,高校の恩師の三回忌に出かけることは,無関係ではないだろう。

● 翻って,自分を顧みると,小学校から大学まで含めて,恩師とよべる教師には出逢わなかった。作者のような出逢いに恵まれなかったということではないはずだ。
 つまり,そういう出逢いにしなかったということだ。情愛が細かくない,人を避ける,君子の交わりは淡きこと水の如しを拡大解釈してきた,そういうことだ。

● ふたつほど転載。
 運命が人の行く末を決めるのではなく,人との出逢い,己以外の人の情愛が,その人に何かを与えるのだと私は思う。人ひとりの力などたかが知れている。(p53)
 どんなに文明が進んでも,人が喜んだり,悲しみに耐える時間は静謐であることが望ましいのだ。喜びがつかの間でも淋しいし,苦しいことがすぐに解消されては(切ないことだが)人生を学ぶことも,知ることも希薄になる。(p82)
● もうひとつ。これは前にも引いたところかもしれないけれど。
 朝,大人が最初に考えるべきは仕事。農夫は,朝起きて隣で子供が熱を出していても,まずは外に出て天気を見て,暑くなる前に草を抜こう,畑に水をやってしまおうと考える。子供の様子はその後でみる。働くとはそういうことだ。(p177)

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