2014年6月3日火曜日

2014.06.02 長谷川慶太郎 『平和ボケした日本人の戦争論』

書名 平和ボケした日本人の戦争論
著者 長谷川慶太郎
発行所 ビジネス社
発行年月日 2014.06.10
価格(税別) 1,100円

● 2002年に刊行された旧著に加筆したもの。タイトルから想像するより,ずっと高度で硬派な内容だ。
 40ページに及ぶ「まえがき」が付いている。お急ぎの人は「まえがき」だけを読むのもありだと思う。

● その「まえがき」から転載。
 その直後,筆者は当時の海部俊樹首相を顔を合わすことがあった。筆者は彼のそばへにじり寄ってこう伝えた。「総理,いよいよベルリンの壁が崩れます」。これに対する海部元首相の答えは「えっ」という嘆声一声であって,それ以外の言葉が出てこない。よほど強い衝撃を受けたに違いない。しかし,衝撃を受けただけでは困る。どう対応するかについては内閣総理大臣の肩にずしりとのしかかっている。それにもかかわらず,海部首相は日本国をリードする役割を演ずることのできない存在であることを,「えっ」という嘆声一声を通じて筆者に示してくれたのである。「なんという情けない首相を上にいただいているか」と筆者は本当に嘆いたものである。(p10)
 筆者はかつて陸上自衛隊幹部学校の校長に聞いたことがある。「いまの自衛隊では演習の講評を行うのに,原稿を作ってからやるんですか」。校長は答えた。「そうですよ。それ以外に方法があるんですか」。筆者はさらに質問した。「『ドイツでは第一次大戦以前から大規模な演習の後の統裁官は必ず原稿を携えることなく詳細に親しく演習の状況について講評を下す』と戦前のレポートに書いた帝国陸軍の将校がおります」。校長曰く,「そうですか。そんなことがあったんですか。我が陸軍は陸上自衛隊を含めてでありますが,それだけの芸当のできる能力をもった指揮官がおりません。残念です」。このやり取りを通じてもわかるとおり,日本陸軍の高級指揮官を務めるべき高級将校の知的レベルは低かった。まことに遺憾なことである。したがって戦争には負けるべくして負けてしまったのだと筆者は考えている。(中略) 同様のことが筆者に焼き付けられたがゆえに筆者は今日においても,この原稿もそうだが,一切原稿など作成していない。自分で述べたことがそのまま文章になるはずだし,またならなければおかしいという確信のもとに口述を続けている。(p24)
 筆者はよく言うことだが,「カネと情報はあるところに集まってくる」。言い換えれば,「カネと情報はないところには来ない」のである。どのような努力を重ねたとしても,まずカネを作ろうとするならば,つまり資産を作ろうとするならば,元金をそれこそ爪に火を灯す思いで貯めなければいけない。(中略)情報を集めようとするならば,まず知識を,少なくとも正確な情報を集めるにはどういう方法を採るべきかのノウハウを身につける努力が必要である。それを身につかない人などに,情報は絶対に来ないと覚悟しなければならない。(p36)
● 戦前の帝国陸軍・海軍は日露戦争以後,目を外に向けなくなり,秘密主義を強め,「民間の批判を許さない存在」になっていった。これに対して,著者は手厳しい。
 「軍事評論」の否定は,軍隊が,自ら進歩する努力を放棄したことを意味する。客観的な資料に基づく評論の存在は,軍隊に対する批判につながるが,同時にこの批判を通じてのみ,軍隊は進歩していくのである。(p183)
 昭和二年に制定された「統帥綱領」あるいは「戦闘綱要」といった戦略・戦術に関する典範令は,日本陸軍の高級将校たちが近代的な軍事科学を勉強する必要性を拒否する役割を果たした。(中略)その結果は,高級将校の戦闘を指揮する戦術能力の低下であり,複雑多岐な近代戦を闘いぬくための不可欠の政治・経済・社会に関する広範な知識を学ぶという意欲の喪失であった。(p184)
 こうした硬直した思考方式,あるいは柔軟性を欠く判断能力しか持たない高級指揮官には,したがって格段の能力を持たない凡庸な人々ばかりが揃うことになった。(p185)
 民間の批判を拒否すること,それは軍事費を税金の形で負担する国民からの批判を軍人が否定することであって,このことは軍人が税金という形で国民に課されている義務を無視して,いわば国民を食いものにする考え方にもつながっている。(p189)
 かつて軍事科学を独占してきたはずの軍人は,敗戦によって軍隊が解体され,その権威がまったく失われてみると,実は一般の知識人に比べて,さらに一般の社会人に比べてすら,生活能力も知的能力も大幅に劣る存在であることが白日のもとにさらされたのである。(p192)
 以上の軍人たちの中には,井上成美も米内光政も入るに違いない。いや,彼らは例外かもしれないけれども,山本五十六も含めて,著者の眼中には存在していないように思われる。

● 著者の仕事は多岐にわたるけれど,その中の大きなひとつについて,本書は集大成になるのではないか。

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