2012年10月23日火曜日

2012.10.22 生井 俊 『ディズニーランド3つの教育コンセプト』


書名 ディズニーランド3つの教育コンセプト
著者 生井 俊
発行所 こう書房
発行年月日 2011.12.10
価格(税別) 1,400円

● ディズニーランドにはたぶん200回は行っていると思う。なぜなら奥さんが好きだったから。結婚してから彼女に誘われて初めて舞浜駅に降りたときのことはよく憶えている。
 ディズニーランドのゲートをくぐった瞬間から,自分がみるみる不機嫌になっていくのがわかった。ここは自分がいる場所ではないと思ったんでしょうね。何が面白いのか,皆目わからないっていう。
 しかし,奥さんは一切めげることはなかった。子どもができてからは,子どもを味方につけて頻繁に出かけた。
 そうこうしているうちに,ぼくも不機嫌になることがなくなり,そのうち,ちょっと楽しいなと思うようになった。

● 年パスホルダーだった時期が3年ほどある。その時期には,年に50回は行っていた。ランドもシーも,ガイドブックより自分の方が詳しいと思うようになった。
 冬の寒い日に開園の2時間前から並んだこともあるし,閉園間際の人が少なくなったパーク内を歩きながら,ディズニーランドってさ,やっぱ夜がいいよねぇ,なんぞとホザいたこともある。
 ミラコスタのポルト・パラディーゾ・サイドのテラスルームにも泊まったことがあった。奥さんがパソコンの前に座りきりでやっと予約できたんだった。小さかった子どもが大喜びしていたなぁ。子どもが喜べば親も嬉しいんだけど,なんか違うだろうって気もしてた。
 何だったんだろうね,あの時期は。熱病にでもかかっていたのか。
 さすがに子どもも大きくなった今は,奥さんもディズニーランドとは言わなくなって,ここ数年はご無沙汰しているんだけど。

● ディズニーの何がこれほどのリピーターを呼びこんでいるのか。
 夢と魔法の王国って言ったってさ,あの雑踏のどこに夢があるんだ。ミッキーやドナルドの着ぐるみの中か。
 そこかしこにお金を巻きあげる装置があって,善良な老若男女がお金を投じている。資本主義の酷薄さってのが,相当に見えやすい形で展開してるよなぁ。
 善良ってのは愚鈍ってことでもあって,言いにくいことながら,人間って(ぼくもだけど)その程度のものなんだろうなぁとも思うんですよね。

● とはいえ。「ワンマンズドリームⅡ」は何度見ても面白いし,ダンスのレベルは相当なものだし,並んで見るだけの価値がある(と思っている)。
 パークに入ってしまえば,百パーセント安全だ。小さな子どもがいるご家庭には重宝なところだろう。ゴミは落ちていないし,どういうわけか人がたくさんいるのに狭苦しさは感じない。
 レストランや屋台で供される食事やピザやポップコーンも,そこそこ旨い。ぼくはシーのロストリバーデルタで売られているユカタンソーセージドッグが好きだった。
 アトラクションは細部までよく設えてあって,大人でも楽しめる。ハニーハントのワゴンがボコボコ揺れる感じなんてなかなかだぞ。
 どうせどこに行ったってお金はかかるのだ。下手な遊園地で一日乗物券を買うくらいだったら,ディズニーランドの方がトータルでずっと安い。

● 徹頭徹尾,作りものの世界なんだけど,その作り方が徹底しているわけですよね。作りを徹底させればさせるほど,かかるコストは幾何級数的に増加する。
 利益の大半を投じて,お客を飽きさせないように努めているはずだ。利益を顧客に還元しているということだね。やらずぼったくりの商売じゃ,これほどの支持を継続させられるはずがない。

● キャストの対応の素晴らしさは伝説になって久しい。若い彼らはほぼ全員がアルバイト。どうしてアルバイトなのにそこまでできるようになるのか。そこを説いた本はこれまでも多く出版されている。本書もそこに一石を加えるもの。

● この本は,著者が高校生だったときのキャスト体験を綴ったものだ。ディズニーが新人キャストに何をどう教えているのかがわかる。もちろん,現場がこんなきれい事だけですんでいるはずがないとは思うんですよ。それでも上澄みはちゃんと紹介されていると思う。
 これを読んでまず思ったことは,自分は(キャストを)できるだろうかってこと。できないんじゃないかと思う。「あの雑踏のどこに夢があるんだ」なんて斜に構えたことを言っているようじゃ,そもそもキャストとしてのスタートラインに立つ資格を欠いているかも。

● この本の肝は「あとがき」にまとめられている。極端にいえば,「あとがき」だけ読めば本書を読んだことになる。
 ディズニーランドのキャスト教育は,自分中心ではなく,ゲスト中心のものです。まず,キャスト自身が魔法にかかっている必要がありますが,ゲストを喜ばせるために行動しています。しれがうまくいくと,ゲストは輝きます。その輝きが,今度はキャストの輝きへとつながっています。その循環が,素敵な空気をつくると考えています。(p196)
 いのちの大切さは,相手にも血が通っていることを知ることから始まります。(p198)
● ただですね,これを読んで同じようにすれば自分のところのサービス水準も向上するなどとは思わない方がいいんでしょうねぇ。これって,ディズニーランドっていう場があればこそのものだと思う。
 もちろん,場が同じならどこでも同じようになるかっていえば,そこまで単純なものではない。たとえば,香港ディズニーランドのサービス水準は東京のそれにはるかに及ばないから。でもね,場からソフトだけを切り離して移植するのは,なかなか難しいんでしょうね。

● 著者のような若い人たちが一生懸命に自分の仕事をまっとうしようとしているのは,読んでいて気持ちが良い。そのいっときの気持ちよさを味わえれば,読書はそれで完結する。読書なんてそれでいいのだと思っている。
 読書の結果を何かに活かそう,何かに役立てようなどと考えるのは,すべからく余計なことだ。活かそうとしなくても活きていたというのが,活かす形の唯一のものだろう。

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