2018年1月19日金曜日

2018.01.19 藤原智美 『あなたがスマホを見ているとき スマホもあなたを見ている』

書名 あなたがスマホを見ているとき スマホもあなたを見ている
著者 藤原智美
発行所 プレジデント社
発行年月日 2017.12.18
価格(税別) 1,300円

● 著者が新聞に連載したエッセイを1冊にまとめたもの。その中の1つのエッセイのタイトルが「あなたがスマホを見ているとき スマホもあなたを見ている」。
 だから,本書全体がスマホを話材にしているわけではない。

● 以下にいくつか転載。
 情報断食中は,一日がこんなに長かったのかと驚くはずだ。私は3か月に1回ほど,3日の情報断食を続けているが,効果はというと,しだいにSNSから遠ざかり今ではまったくやらなくなったこと。ネット全体に費やす時間も以前よりだいぶ少なくなった。(p33)
 人を撮るという行為にはコミュニケーションが必要だ。すぐれた写真家はそれがうまかった。土門拳,木村伊兵衛,現役では荒木経惟。しかしネットの時代は,自己防衛として撮られる側の権利意識がどうしても強くなる。そうした「心のバリアー」は,見知らぬ人とのコミュニケーションを難しくする。こうなると,やがて他者への関心自体も薄れていくのかも。(p44)
 ある料理屋で板前さんが常連客とかわした言葉が耳に入った。「最近の店は白い無地の器ばかり使うから,盛りつけが雑になっている。彼らは色や絵のある器は,使いこなせないんじゃないか」(中略)なんでも無地で無難,というのではちょっと貧相ではないか。(p200)
 昔は「無地で無難」を最も上等なものとして推奨することが多かったような気がする。文士と呼ばれた人たちが男性の服装について語るときは,ストライプの難しさを指摘するのと,無地を勧めるのが定番になっていたような。このあたりも時代とともに移ろうんだな。

2017年12月29日金曜日

2017.12.29 堀江貴文 外 『新世代CEOの本棚』

書名 新世代CEOの本棚
著者 堀江貴文 外
発行所 文藝春秋
発行年月日 2016.03.25
価格(税別) 1,400円

● 堀江貴文,森川亮,朝倉祐介,佐藤航陽,出雲充,迫俊亮,石川康晴,仲暁子,孫泰蔵,佐渡島庸平の10人が著者に名を連ねている。もちろん,ライターがインタビューして文章をまとめている。

● 最も意外だったのは,森川亮さんが『7つの習慣』を愛読書にあげて,フランクリン・プランナーを使っていること。できる人って,こういうものに目もくれないものだと思っていたので。
 もちろん,そのように思っていたことに,確たる根拠などはない。たぶん,そんなものなのだろうなぁと思っていただけ。

● 最も印象に残ったのは,佐藤航陽さんが,知りすぎるとすべてが相対的に見えてしまって,経営者としてはパッションを持ちにくくなる,と語っているところ。
 そういう人は学者になればいいのかもしれない。そうはいっても,経営者が知る努力をやめてしまってはいけないのではないかとも思うし。
 出口治明さんなんかは,どうやってパッションを維持してきたのだろう。

● 堀江貴文
 座右の書とか,人生で影響を受けた本というのはありません。本1回読んだら終わり。何度も読み返す人は,何のために読み返しているのか,逆に聞きたいくらいです。(p11)
 本を読んだら,読んだ感想をすぐにアウトプットする習慣をつけるといいと思います。ブログとかで簡潔にまとめる。簡潔というのがポイントで,読書感想文をだらだら書くとよくないんです。(中略)ネットは文字数制限がないから,自分で意識して短くまとめないと,ついだらだら文章を垂れ流すことになってしまう。140字のツイッターはすごく練習になります。本のキャッチコピーをつける気持ちで,短く言い切る。そういう練習を普段からしていれば,アウトプットの質は高まります。(p11)
 歴史を俯瞰すると,なるほど,これがこうなって,あっちにつながっていくんだということが見えてくる。この蛇口をひめるとドカンと来そう,という勘所がわかるんです。(p20)
● 森川亮
 僕はこれまでの起業家人生でたくさん失敗を経験してきたので,これ以上時間をムダにしたくないという気持ちが強くあります。失敗するのは仕方ないけれど,同じ失敗を繰り返してはいけない。(p34)
 日々,小さな改善をすること。細部にこだわるのは,高速で走っている新幹線はひと粒の石ころでも第事故につながるとの思いがあるからです。(p35)
 1日に意思決定できるボリュームが決っているとしたら,くだらない意思決定ばかりしていると,本当に大事な意思決定ができなくなる。(p37)
 一緒に働くなら相性が重要で,相性が悪い人と無理に仲良くしようとすると,時間がムダになってしまう。会社としては,モチベーションを上げてあげないと働けないような人より,最初からモチベーションがある人と仕事をしたほうが,お互いにハッピーです。(p37)
 いくら計画を立てても,必ずしも計画通りにいくわけではありません。だから,計画は一つ立てて終わりではなく,あらゆる事態を想定して100くらいパターンを用意しておきます。(p38)
 リーダーシップに決まったかたちはありませんが,自分本位だとうまくいきません。(p39)
 地方創生や地域の活性化というと,すぐに皆,よそのまちの取り組みをまねし始めるのですが,横並びでフラット化すると価値がなくなってしまうから,いかに多様性を生み出すか。(p41)
 起業の素晴らしさを述べた本はたくさんありますが,実態としてはむしろつらいことばかり。でも,そこから這い上がっていく中で,人間としても大きく成長できるのです。本当に大事なのは,スキルでも経験でもなく,精神的な粘り強さと誠実さ。(p45)
 みんなが共感する仕組みは何かと考えると,最終的には人間だけではなく,動物も自然も宇宙も共存できるような仕組みではないでしょうか。そういう気持ちでやらないと,世間から排除されてしまうのではないかと思います。(p46)
 大事なのは,本気か本気じゃないかです。自分が納得できないものは本気になれないし,それでは他人を説得することもできません。(p46)
● 朝倉祐介
 先行事例,特に先駆者たちの失敗体験を自分のものにしておくことに意味があります。ITベンチャーの世界でいうと,『社長失格』は最高の読み物です。(p60)
 経営者も人間なので,気を許すと,自然にゲマインシャフト寄りの発想に陥りがちです。目の前にいる従業員とは日々接しているわけですから,「社食がまずい」という声があがってきたら「なんとかしなきゃいけない」と思ってしまう。けれども,株主や投資家とは毎日顔を合わせるわけではありません。(p65)
 本は,読むタイミングが重要です。(中略)必要に迫られて読んだときのほうが迫力もあるし,得られることも多いのです。(p66)
 口にしたことは現実になってしまうという「言霊信仰」のせいか,起きてほしくないことを言葉にすること自体がタブーになってしまう。事業が衰退局面にあることは誰もが気づいているのに,口に出すことさえ許されない雰囲気が支配する。これでは時代の変化に対応できません。(p68)
 他人の話を真面目に聞く人というのはなかなかいません。たとえ相手が「わかった」と答えたとしても,離した通りに行動してもらえると期待するのがそもそもの間違いです。(p74)
● 佐藤航陽
 有名なグーグルの20%ルールも,創業者が意思決定を間違えたときのためのリスクヘッジとして,社員の創意工夫を引き出そうという仕組みです。(p97)
 人間は最も古くて実績のある選択肢を選びがちなので,経済にはどうしても「偏り」が生じる。その偏りをスピーディーに見つけることができれば,市場を押さえられる。(p87)
 ハンガリー生まれのユダヤ人であったソロスは,ナチスの支配下にあったブダペストで,同胞のユダヤ人を密告することで生き残り,そこで十字架を背負います。(p89)
 もともと哲学者になりたかったソロスは,再帰性という自分のロジックがこの世界に当てはまるか試してみようということで,自分の論理を実験する場として株式市場を選びます。だから,ソロスにとって投資はただの手段にすぎない。(p90)
 マネーの歴史を振り返ってみて気づいたのは,経済のスピードはリソースのよってまったく違うということです。人が異動したり転職したりするスピードを1とすると,その間に法人の取引は10回くらい進みます。同じ期間に,資本は100倍に拡大して,情報は1000倍くらい拡散する。(p93)
 ビジネスとうのは,そもそも99%の人が負ける世界です。上位1%が残り99%の利益を総取りする世界なので,他人と同じことをしている時点で勝ち目はありません。(p93)
 重要なのは,インターネットはもはやフロンティアではなくなってきているということです。そうなると,ゲノムや宇宙空間に行かざるを得ない。(p95)
 興味の赴くままにいろいろな本を読んでいますが,一つだけ懸念しているのは,知識量が増えすぎると,全部相対的に見えてしまって,経営者としてはパッションを持ちにくくなるという面があることです。(p97)
 何かを思い込んでいる人がすごい集中力を発揮する。その人の思い込みが強いほど,その熱が周りに伝わり,世の中が動いていきます。ところが,いろいろ考えて,この人の立場もわかるし,この人の立場もわかるとなると,動けない。(p98)
● 出雲充
 「本のキュレーター」でもっとも信頼しているのが,成毛眞さんです。(p111)
● 迫俊亮
 ギリシャ時代から,人間が考え,悩んでいることはだいたい同じです。どれだけ文明が発達しようが,人間そのものはたいして進歩していない。(p140)
 それまでの私はどこかで,「本に書かれていること=正しいこと」と考えていたのでしょう。(p143)
 人の思想や行動は,主体的に生きているつもりでも,知らず知らずのうちに社会構造によって規定されている。この考えがすべての社会学の基本となっています。(p144)
● 石川康晴
 大御所とされるような経営者の方と会食をすると,ほとんどが自慢話だったりする。でも,その話の中で,はっとするような言葉を1個,2個といただけるわけです。(中略)はじめから著者の経験や教えが整理して書かれているのが,本。学びの効率は本に軍配が上がるでしょう。(p160)
 現代アートとは,概念を見るものだと考えています。美しさではなく,裏側にあるクリエイターの「新しい概念」を期待するもの。もはや,哲学なんですね。(p169)
● 仲暁子
 意思決定というのは,最終的には思想の表れです。もっと言えば,経営者の「好き嫌い」でしょう。(p185)
 いまこの瞬間に向き合わなければ,未来計画を立てても意味がない(p193)
 人間はゴールを決めた瞬間がもっともやる気が高く,あとは落ちる一方だ(『スタンフォードの自分を変える教室』)(p193)
● 孫泰蔵
 先進国と発展途上国という区分けにしても,物差し自体がきわめて20世紀的であると言わざるを得ません。(o211)
 やはりアウトプットを意識して読んだほうが,内容をより深く理解できる(p212)
 この,愚直に努力し続けるという姿勢こそ,起業家に最も必要なものではないかと僕は思うのです。(p220)
● 佐渡島庸平
 僕はきれいな言葉をつむぐ人が好きなんです。こればっかりは育てようと思って育てられるものじゃないから,編集者として,その部分は手伝えない。(p234)
 クリエイターの才能を見極めるポイントは観察力だと思います。(中略)伸びる人は,同じものを見ていても,人とは違うところまで見えています。(p234)
 ストーリーづくりの要は想像力だと思っている人が多いかもしれませんが,僕はそうは思いません。実際,ほとんどの物語は,過去の記憶を再編して,そこに10%くらい新しい要素を加えてできています。想像力の果たす役割は1割くらいしかないんです。(p235)
 自分というのは一つではなくて,相手によって違った自分が引き出される(中略)。今,目の前にいる人は,僕が引き出したその人の一面にすぎないわけです。(中略)相手からよりよいパフォーマンスを引き出したいなら,自分が先に変わらなければ,と素直に思えるようになりました(p241)
 今,僕が思っているのは,インターネットの中で先に話題をつくってから,その後のマネタイズの手段の一つとして本があると,成立しやすいということです。(p244)

2017年12月27日水曜日

2017.12.27 髙村 薫 『空海』

書名 空海
著者 髙村 薫
発行所 新潮社
発行年月日 2015.09.30
価格(税別) 1,800円

● 空海については,先月,松岡正剛『空海の夢』を読んで,疲労困憊したというか,何を読んでももう仕方がないかもしれないな,と思ったというか。
 が,気を取り直して,今回は髙村薫さんのこの本を。

● 著者が女性だと,女性ならではの視点でという言い方をされがちなものだろうか。文章に柔らかさは感じたけれども,女性の視点というのは,たとえあったにしても,ぼくにはわからないだろう。
 が,文章を書くことを業とする人ならではの視点というのはあるかもしれない。空海の言語感覚への言及と,恵果の空海への賛辞の捉え方にそれを感じたのだが。

● 以下にいくつか転載。
 坂上田村麻呂の蝦夷征伐後,東北の土着の祈りを教化してきたはずの仏教は,神々や祖霊たちとともに生きる民衆の祈りに,いつの間にか逆に吸収されていたのである。(p13)
 三一歳の山内のある住職は,修行より人間関係の難しさに苦労したとさらりと語り,二〇一三年三月に専修学院を出たばかりの二十代の青年僧も,学院で一番きつかったのは寮生活の人間関係ということだった。どちらも実に好青年であり,密教の神秘体験は自分にはないと話す。(p19)
 自身の役割についてのこの平明な確信こそ彼らを明るくしている当のものだとすれば,彼らにこうした確信をもたらす真言宗もまた,平成のいま,とにかく明るく風通しのよい相貌をしているということになろう。(p22)
 千二百年という年月は,私たちがふつうに想像をめぐらせることのできる範囲をはるかに超えている(中略)千二百年前の日本人は,一言で言えば今日とはかけ離れた常識や価値観,世界観をもって暮らしていたのであり,私たちのものの見方では測れないと考えたほうがよい。(p26)
 歴代天皇たちの、仏教へのこの認識の高さはどうだろう。(p31)
 これ(空海と恵果の劇的な出会い)については,(中略)中国人らしい歓待の世辞であった可能性もないことはない。空海が記した恵果とのやり取りには,後者(世辞)ではないかと思われれる言辞が随所に見られる(p55)
 つながるはずのないものをつなげるためには,本来の意味を不断に読み替え,最後は論理を超えてゆかねばならない。(p70)
 それにしても空海は強運の持ち主である。そこに並外れた情熱と行動力,気配り,積極性,筆まめ,文才が加わればもはや無敵だろう。(p72)
 宗教的確信は,論理を超越する。信心に無縁の人間が宗教者の著作に触れるときに感じる違和感がそれである。空海の,言葉への並外れた執着と独創的な言語感覚は,同時代のほかの仏教者には見られないものである。いわば言葉で世界を言い表すというより,ことばで世界を強引に創造してしまうと言おうか。(p74)
 文字へのこの特別な傾倒は,空海を同時代に屹立させている最大のものだと私は思う。(p79)
 仏陀の死以来,人びとが追い求めてきたのは仏舎利や仏像といった目に見える信仰の対象であり,そうした具体的な対象があったからこそ仏教が営々と永らえてきたことを思うとき,目に見えるものとしての曼荼羅への空海の直観的な傾倒は,よく理解できるような気がする。(p94)
 唐から請来したすべての経巻や法具や仏画を,金剛峯寺ではなく東寺に納めたことを見ても,空海が東寺を日本の青龍寺とみなし,真言密教の根本道場にせんとしていたのは明らかである。(p107)
 近年の研究では,空海が没して以降,数百年にわたってその著作が宗派内でひもとかれた形跡がない,というのである。にわかには信じがたい話であるが,それが事実なら,祖師空海の眠る御廟はともかく,その生前の偉業はすっかり軽んじられ,あるいは忘れられていったことになる。(p111)
 日本仏教を底辺で支えた高野聖は,高野山と弘法大師を千二百年生き延びさせた最大の功労者であることに疑いはない。(p128)
 お遍路たちの気分を一言で言えば,高揚と多幸感であろう。そしてその高揚こそが,ときにお大師さんを出現させる当のものだと思う。(p139)
 この空気は地元の人びとにも伝染する。(中略)お遍路の姿を見ると自然にありがたい気持ちが湧き,お接待に走る。四国遍路に特有のお接待は,大師への喜捨という側面もさることながら,地元の人びともまたある種の高揚感に包まれていると考えるほうが分かりやすい。(p142)
 最澄は晩年,東国の法相宗の学僧徳一と法華経の解釈をめぐる論争に明け暮れたことが知られているが,教相判釈への徹底したこだわりは,すべての顕教を呑み込んで障りなしとした空海と大きな対照を為す。(中略)すべてを包含してみせた真言密教はそれゆえに大胆な進化を停止し,ぐずぐずと論争の続いた天台教学は,それゆえ進化もあったのだろう。(中略)論理を超越したものは論理によって批判されることもない代わりに,大きな変化や革新からは孤絶するのである。(p177)
 恵果をして「相待つこと久し」と言わしめた空海の名声とは,その博識や学習への情熱といった抽象的なものではなく,誰もが眼で見て分かるものから来ていたはずである。そう,空海はその全身から菩薩のようなオーラを発していたのではないだろうか。(中略)入滅後,急速にその名声が退いていったのも,眼に見えるオーラがなくなったためだと考えれば,一層分かりやすい。(p184)

2017年12月23日土曜日

2017.12.23 リーアンダー・ケイニー 『ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー』

書名 ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー
著者 リーアンダー・ケイニー
訳者 関 美和
発行所 日経BP社
発行年月日 2015.01.13
価格(税別) 1,800円

● ジョナサン・アイブといえば,もはや知らぬ人はいないであろう,アップルの立役者。
 本書は彼の自伝であり,アップルの解体新書でもあり,工業デザインの入門(あるいは紹介)書でもある。

● 面白くなるのは,ジョナサン・アイブがアップルに入社してからで,著者もそこからの力の入れ方が違ってくる。とりわけ,スティーブ・ジョブズが復帰してから。
 取材対象が多くて,書きやすくもあるだろうし,読者が読みたいのもそこからだとわかっているからでもあるだろう。

● ここを読んでいて,このときに全財産をはたいてアップル株を買っていればなぁと思わない人は,あまりいないだろう。
 ぼくもそうなんだけど,実際に買えた人は少ないだろうね。そういうもんだよね。過ぎてから,あのとき買っておけばと考えるのは,凡人のサガというもので,それ以上ではない。

● iPhoneやiPadを使っている人は,自分は素晴らしい製品のユーザーなのだと満足感を刺激してもらえるだろう。
 ぼくはWindowsとAndroidから出られない人間なんだけど,なるほどアップルはここまで作り込んでいるのかと感嘆の連続だった。特に部品を少なくするための執念というか,妥協のなさというか,捨てざるを得ないものを思い切りよく捨てる潔さというか,ただ圧倒された。

● 同時に,ジョナサン・アイブなきあとのアップルはどうなってしまうのかとも思った。いや,その前に,彼が打ちたてたデザイン言語も未来永劫ではないだろう。
 そのことは本書でも指摘されている。デザインの秀逸さを保つために,アップルはどんな手を打つのか。野次馬的な興味がある。

● 以下にいくつか転載。
 そぎ落としてシンプルにする。テクノロジーの業界では普通ありえない。新製品を発表するときには、たいていそぎ落とすのではなく,あれこれと機能を付け加えたくなるものだ。(p18)
 その教授は学生の作品に最大の敬意を払っていた。たとえひどい作品でも,かならずきれいに粉を払ってから,話を始めた。(p43)
 ほとんどの学生なら5,6個の模型で終わるところ,ジョニーは数百個の単位で模型を作っていた。「あれほどのものを見たことがなかった。とことん完璧を追求していたんだ」。(p55)
 CEOのスカリーはこれをPDAと呼んでいたが,ジョニーはわかりにくと思っていた。「日常生活の中でどう使ったらいいかわからないことが問題だった」とジョニーは言う。「具体的なストーリーを提示できていなかったんだ」。(p113)
 デザイナーの採用では,エンジニアリングとコンピュータのスキルはあればいいが,絶対に必要というわけではない。「人柄,圧倒的な才能,少人数のグループで働く能力を見ている。こちらが恐縮するほどの才能を見せつけてほしい」とデイ・ユーリスは言う。(p122)
 あらゆる段階で,彼らはエンジニアの抵抗にあった。「中間管理職の層は限りなく厚く,そのほとんどはデルかHPの出身で,デザイン主導のアプローチを理解できなかった」とブルーナーは言う。(p131)
 「経営側はだれにでも訴求するものを作りたがるが,それでは中途半端なものしか生まれない。出来上がったものは妥協の産物になる。だから天才の輝きが表に現れることはほとんどなかった」とブルーナーは言う。(p143)
 アメリオはデザインをほとんど解さなかった。「利益を追いかけるあまり,製品への思いやりが失われていた。デザイナーに外観を繕うことしか求めず,エンジニアは生産コストを下げることしか考えていなかった。僕は辞めるところだった」とジョニーは言う。(P145)
 「アップルのどこが悪いか教えてくれないか」とジョブズが問いかける。だれも返事をしないでいると,ジョブズは突然大声で怒鳴り始めた。「プロダクトだ! プロダクトが最悪じゃないか! セクシーさがどこにもない」(p147)
 ウィンドウズOSマシンが支配するコンピュータ市場での競争は避けたかった。コンピュータメーカーは機能や使いやすさではなく価格で勝負していたからだ。それは底辺へ向かう競争だとジョブズは考えていた。(中略)500ドルのマシンではなく3000ドルのマシンを作れば,少ない販売台数でも利益を出せる。だから,今までで最高の3000ドルのマシンに集中してみてはどうだろう?(p150)
 ジョブズにとって,デザインは見かけ以上のものだった。(中略)「みんなはデザインをお化粧だと思っている。ハコを渡して『見栄えをよくしてくれ』と言えばいいと思ってるんだ。それはデザインじゃない。外見と感覚だけじゃないんだ。デザインは,ものの働きなんだよ」(p152)
 工業デザイナーは,モノをデザインするんじゃない。僕らはユーザーが対象をどう受け止めるかをデザインする。その存在,機能,可能性が生み出す意味をデザインするんだ(p166)
 コンピュータ業界は,感情に訴えるような目にみえない特質を見過ごしてきた。だが,僕がはじめてアップルのコンピュータを買った理由はそれなんだ。(P166)
 精巧な模型を作ることがデザイン工程の核となる。ジョニーも大学でそれを経験していた。「抽象的なアイデアを素材で表現するとき,もっとも劇的な変化が現れる。たとえ粗い模型でも3Dモデルを作ることによって,ぼんやりとしたアイデアが形になる。プロセス全体が変化するんだ。それが刺激になり,集中できる。驚くほど変わるんだ」とジョニーは言う。(p169)
 ジョニーにとってこのハンドルは実際に持ち歩くためというよりは,触ってもらうことでマシンとユーザーの絆を築くためのものだった。(p176)
 ジョニー率いるIDgの未来志向と明るさはくせになる,とCAD専門家のマージ・アンドリーセンは言う。「エンジニアはだいたい今可能なことしか考えないの。だけど工業デザイナーは,明日や未来になにができるかを思い描くのよ」(p179)
 先に進もうとすれば,置いていくものが出る。だれがなんと言おうと,フロッピードライブは,古臭い技術だ。批判は承知しているが,前進に摩擦はつきものだし,進化が段階的に起きるとは限らない(p189)
 デザインを差別化の手段だと思っている人が多すぎる。全く嫌になるよ。それは企業側の見方だ。顧客や消費者の視点じゃない。僕たちの目標は差別化じゃなくて,これから先も人に愛される製品を創ることだとわかってほしい。差別化はその結果なんだ(p193)
 ひとつ残らず書きとめます。それが義務付けられています。(中略)アップルではすべてを体系的に記録しなければなりませんでした。エキサイトやヤフーといった別の会社で働いてみて,はじめてアップルのすごさがわかりました。他社には全くそういったものがなかったんです。なにも書き記さないんですから。プロセスってなに? 嘘でしょ? という感じで,仕事が終わるとなにも残りません(p201)
 iBookのアイデアは,はじめはてんでばらばらだった。彼らはフォーカスグループや市場調査を使わず,ブレインストーミングでアイデアを生み出していた。「フォーカスグループはやらない。アイデアを出すのはデザイナーの仕事だから」とジョニーは言う。「明日の可能性に触れる機会のない人たちに,未来のデザインについて聞くこと自体が的外れだよ」(p205)
 パワーブックの磁石ラッチは「いい製品」を「偉大な製品」に変えるディテールの代表例だった。(中略)そうした細かい職人芸こそが大切なのだ。ジョニーもそう思っていた。「目に見えない部分に異常なまでに気を配ることが決め手になる。その細部へのこだわりが見過ごされがちなんだ」とジョニーは言う。(p213)
 ジョニーはたくさんの部品をタワー型筐体に放り込むのは怠慢だと考えていた。エンジニアやデザイナーにとって一番簡単だからといって,大きな醜いタワーを消費者に売りつけていいのか?(p218)
 スケッチは工程に欠かせない。ストリンガーは言う。「僕はどこでもここでもスケッチしてしまうんだ・ルーズリーフにも,模型にも。周りにあるものに手当たり次第」(p233)
 ファデルはジョブズに会うのははじめてだったが,こちらが一番いいと思うデザインをジョブズに選ばせるコツを伝授されていた。選択肢を3つ準備して,最後に自分のいち押しを見せる。(p245)
 スティーブになにかひとつだけ見せると,絶対に気に入らないんだ。それがすばらしいものでもね。だから,いつもダミーが必要だった(p250)
 アップルの調査では,電池を交換すると答える人でさえ,実は誰も交換していないことがすでにわかっていた。ユーザー(とりわけ批評家)は交換可能な電池に慣れていたため,密閉バッテリーに抗議する人が出ることはもちろん予想できた。だが,それを削ることで,iPodの筐体は2枚のパーツのみで作ることが可能になった。(p252)
 ジョニーが発明した変速クラッチは,ふたをほぼ閉じた状態でも抵抗が少なく,片手で開けても本体が机から離れない。ユーザー・エクスペリエンスの向上に驚くほど細かい注意が払われているが,どれほどの努力がつぎ込まれているかに気づくユーザーはほとんどいない。(p276)
 アップルのデザイナーがいわゆる工業デザイン,つまりアイデア,ドローイング,模型作り,ブレインストーミングに使う時間は全体の一割ほどだ。残りの9割は,アイデアをどう実現するかを製造部門と一緒に模索している。(p279)
 スティーブはすぐに思いついたことを口にするので,ほかに人がいる場では新しいものを見せないようにしていた。「クソだ」とけなしてアイデアを殺してしまう可能性もあったから。アイデアというのは,とても壊れやすい。だから大事に育ててあげないといけない。(p294)
 もう少しで倒産という瀬戸際に立たされれば,少しはお金を儲けようと考えるのが普通でしょう。ですが,スティーブの頭にあったのは違うことでした。製品がよくなかった,だから「もっといい製品を作るんだ」というのが彼の答えでした。(p370)
 大量生産の準備中に,自分たちの中でいい面ばかりをあげつらっていることに気づくことが何度もありました。私にとって,それはいつも危険な兆候でした。自分がなにかを強く言い募っているとき,自分を納得させようとしているときはたいてい危険なのです(p371)
 アップルにとってはスティーブの死よりジョニーが辞めるほうが深刻だ。ジョニーは替えがきかないから。(p371)
 ジョニー・アイブにひとつだけ秘訣があるとすれば,それはシンプル化の哲学に奴隷のように従っていることだ。(中略)ジョニーの究極の目標は,デザインを消すことだ。(中略)「僕の目標は,シンプルなもの,持ち主が思い通りにできるものだ。デザイナーが正しい仕事をすれば,ユーザーは対象により近づき,より没頭するようになる。たとえば,新しいiPadのiPhotoアプリにユーザーは我を忘れて没頭し,iPadを使っていることなど忘れてしまうんだ」(p374)

2017年12月11日月曜日

2017.12.11 堀江貴文 『稼ぐが勝ち』

書名 稼ぐが勝ち
著者 堀江貴文
発行所 光文社
発行年月日 2004.08.10
価格(税別) 1,200円

● 続いて,堀江さんの昔の著書を。

● 以下にいくつか転載。
 この世においしいアルバイトはありません。アルバイトをはじめた時点で,必ず搾取の対象になるからです。(中略)月三〇万から四〇万円のバイト収入を得ていた僕はというと,これは大学生にとっては少なくない金額でしたから,そこで満足してしまっていたのです。しかし,実はそのとき僕がとるべき行動は,「会社側はなぜこんなに割のいい仕事をくれるのか」ということを考えることだったのです。(p41)
 僕は以前からコピーライターの糸井重里さんに注目しています。あの人は他人をうまく利用することで,成功を収めた人です。糸井さんが立ち上げているホームページの「ほぼ日刊イトイ新聞」はほんとうにすごい。そのコンテンツをつくるために,多くのボランティアを利用しているのです。(中略)自分に自信がある人ほど,自分だけでなんとかうまくやろうとするものです。しかし,それはムダが多い。(p52)
 これまで人類全体ががむしゃらに突っ走ってきて,ふと後ろをふり返ってしまったのですね。「はたしてこれでいいのだろうか」と。僕はいいと思います。後ろを振り返ってもなにもいいことはありません。(p63)
 ものごとを複雑に考えることは簡単なのです。いつまでも引き延ばしていればいいわけですから。世の中って,複雑に考えようとしたらいくらでも複雑に考えられるものなのです。(p81)
 なんでもやりたいときにやるのが一番なのです。(中略)いろいろ無駄なことを考えて悩むよりも,勝算がありそうだったら一回翔んでみればいいのです。(p82)
 多くの人は「基本に忠実」にやらないで失敗するのです。(中略)たとえば,資金繰りの大切さがわかっていない。(p84)
 そういう雑誌に成功例として登場する人たちって,「なんでこんな人が金持ちになれるんだ」という程度の人ばかりです。(p102)
 実は営業をしない人って多いのです。「良い商品を作りさえすれば,自然とお客さんが集まってくるだろう」と本気で思い込んでいる人が意外に多いのです。(p103)
 ビジネスはもともと泥臭いものです。難しく考えてはいけません。気合いと根性。それだけで十分なのです。(中略)気合いと根性でものを売る。それが成功体験につながる。そうするとどんどん気合いと根性がついていく。成功体験が積み重なると勇気がでてくる。(p107)
 取引先は知人に紹介してもらったほうがいい。これは(中略)街角でナンパするよりも,友人の紹介や合コンで知り合うほうが成功率が高いのと同じです。(p109)
 ボランティアは生ぬるいのでやめたほうがいいと思います。ボランティアで結ばれた関係というのは非常に脆いものです。お金が絡んでいない以上,そこには責任が発生しないからです。(p115)
 失敗しないと学べない人は凡人です。自分の身をもってでないと学習できないということは,他人の失敗から学ぶことができない人ということです。(p116)
 ネットワークだけで完結してしまう引きこもりの人向きの仕事ってあると思うのです。たとえば,「ネットナンパ代行」。(p132)
 実はプログラムをつくるのはすごく簡単な作業なのです。しかし,自分でプログラムをしない人たちからは難しいそうに見える。(p151)
 ゲームはすべてネットワークゲームになっていくはずです。理由は,相手が人だからです。人と人のコミュニケーションには,終わりがないのです。(p156)
 僕は無駄に敵をつくらないタイプです。相手に自分が見えていないのだったら,自分を相手を見なければいい。ただそれだけです。(p160)
 「自分の限界はこの程度のものだ」と悟ったときに,未来への道は断たれます。悟ってはだめなのです。僕に言わせれば悟りとは逃避に過ぎないからです。(p162)
 彼(高橋歩)に惹かれてフリースクールに集まってきている人たちというのは,少し怪しいのです。そこに行けばなんとかなるだろうと思ってしまっている。(p164)
 中途半端に祇園で芸者遊びをしても笑われるだけです。個人的なことをいえば,若い素人の女の子と遊んでいたほうが数倍楽しい。(p171)
 若者の夢がなくなることで経済は失速していくのです。僕たちが夢を見せることで,再び日本経済は活性化していくと思います。(p172)
 永遠に安定している世の中なんて存在するわけがありません。「生々流転で諸行無常。万物は常ならず」というのが現実の世界なのです。(p179)
 逆に考えればいいのです。世の中は「常ならず」なのだから,いま貧乏な自分も,数年後には大金持ちになっていると。(p180)
 多くの人がどんどんインターネットに流れて,テレビを見なくなる。実はすでにテレビは「ながら視聴」になってしまっています。(中略)大事なことは「ながら」ものに対しては,ビジネスは発生しにくくなるということです。(p196)

2017年12月7日木曜日

2017.12.07 堀江貴文 『ホリエモンの新資本主義!』

書名 ホリエモンの新資本主義!
著者 堀江貴文
発行所 光文社
発行年月日 2005.05.05
価格(税別) 1,200円

● 堀江さんが刑務所経験をする前の著書。最近の著書と読み比べてみても,堀江さんが言っていることは以前からブレていないことがわかる。
 こんなにブレなくていいのか。ブレていないというのは,成長していないということではないのか。若くして,完成型に至ってしまったのか? と言いたくなるくらいのものだ。

● っていうか,タイプの問題なんですかね。タイプは結局,変わりようがないってことなんでしょうね。
 変わりようがないから,自分もホリエモンになろうと頑張ってみても,十中八九はダメなんだよね。っていうか,十中十,ダメかもしれない。

● 以下にいくつか転載。
 僕の夢は,昔からまわりの人たちに宣言していた,宇宙開発と人間の生命の根源を解明すること。この事業のためには,熱意も時間も費やすけれど,なんといっても莫大な研究費が必要になるのですよ。(p24)
 東大に受かりたかったら,英語の単語帳を丸暗記するだけでいい。いろいろ難しいことは考えずに,体力勝負でシンプルにやる。そのかわり徹底的にやればいいのです。生半可な暗記ではなくて,用法も含めて,徹底的に暗記する。(p26)
 優秀な人材がそこらへんに転がっているはずがない。ほんとうに優秀な人は,必ず自分の力でお金を稼いでいます。(p28)
 就職とは他人のコントロールリスクの支配下に入ることです。どれだけ一生懸命やろうが,結局は搾取の対象になるだけです。(p32)
 企業社会でいちばん得をしているのは,仕事ができない社員です。彼らはできる社員が稼いだ金で食わせてもらっているのですから。(p32)
 僕はニートが増えた原因は,旧世代の産業構造と価値観が壊れてきたことにあると見ています。あらかじめ失われた未来が,彼らにはまざまざと見えているのです。(p36)
 苦労をしたって人間は成長しません。苦労をしないように,頭を使える人間が成功するのです。(p40)
 「自分のできる範囲で」なんて考えていたら,そこで終わってしまいますよね。少し,無理な仕事をこなしていくことで,会社は大きくなっていくのです。(p42)
 成功した人のやり方をマネしても,同じように成功できるとは限りませんが,失敗した人に学ぶと同じ失敗をしなくてすむようになる。(p44)
 「タイミングを読む」と言えば聞こえはいいですけど,要するにいつまでもタイミングを見計らっていて,時間をムダにしているだけなのです。(p64)
 僕の主張は「うまいものを安く」ではなく,「うまいものにお金を払え」。(p68)
 講演に行くくらいなら,講演者の著書を読んだほうがてっとり早いのです。つくづく不思議に思っているのですが,なぜわざわざ僕の講演を聞きに来るのか。(中略)僕が大学に行かなくなったのは,教授は自分の本の内容以上のことは話さないとわかったからです。本に書いてあることを水増しして講義でしゃべるだけ。僕だって同じようなものです。(p72)
 中心にいることで見えてくるものはたくさんあります。それがわかっているから,みんな六本木ヒルズに集まってくるのでしょう。(中略)六本木ヒルズ自体が,一種の広告塔なのです。言ってみれば賃貸料には広告費も含まれているのです。(p84)
 財務諸表を読むのはカンタンです。ほんの少しだけ勉強すればいい。でも多くの人が,このわずかな手間を厭い瑣末な情報ばかりありがたがるのはなぜなのでしょうか。(p88)
 僕はお金のことはすべて実戦で学んでいます。会社の経営というのは,まず実験をしてから理論がついてくる実験物理学みたいな世界です。「理論が先か実験が先か」はかなり曖昧で,理論に振り回されていたら,経営はおぼつかない。(p98)
 ベンツでゴルフにでかけるみたいな典型的な旧世代の「中小企業オヤジ」スタイルって,かっこ悪いでしょう。(p106)
 どんなに時代が変わっても,業種全体がゼロになることはほとんどありません。(中略)落ちめになってもファンがいるということは,非常に強い関係の顧客層がいると考えていいでしょう。(p118)
 なかなか決まらない商談というのは結局はお互いにメリットがないことが多いのですね。(p140)
 興味がないからと言って,食わず嫌いでは自分の目の前にやってきたお宝をみすみす逃すことになる。世の中には,自分の知らない楽しいこと,面白いことがたくさんあるはずです。自分が持っている知識なんて,たかが知れているということを,もっと認識すべきです。(p156)
 「変化に対応する」というと聞こえはいいけれど,要するに後手後手にまわっているということ。変化に対応するのではなく,自分で変化を起こせば,そこで最先端にいられるわけです。(p176)
 僕は伝統とは壊していくものだと思っています。(中略)歴史をきちんと学べば,変化こそが「伝統」をつくってきたことがわかるはずなのです。(p178)

2017年12月4日月曜日

2017.12.04 櫻井秀勲 『多才力』

書名 多才力
著者 櫻井秀勲
発行所 東京堂出版
発行年月日 2012.10.30
価格(税別) 1,400円

● 副題は「ひとつの才能では,もう伸びていけない」。と言われると,そのひとつの才能も持っていない人は途方に暮れるだろう。つまり,圧倒的多数が途方に暮れる。
 ぼくはもう長く生きる必要はない年齢になっているので,気楽といえば気楽なものだが,若い人たちは大変な時代を生きて行かなければならないのだなぁと思った。ため息が出そうだ。

● でもね,ぼく自身の経験からいうと,20歳まで無事に生き延びてきたのなら,おそらく何とかなるよ。社会人になってから,20歳になるまでに味わった苦悩に勝る体験をすることは,たぶんないんじゃないかなと思う。
 学校より職場の方が楽だ。ぼくはサラリーマンの世界しか知らないんだけど,あえてそう断言してしまおう。

● 理由は3つある。ひとつは,同級生かせいぜい前後2年の幅しかない世界から,数十年の幅がある世界に出るということ。後者の方が楽なのだ。
 もうひとつは,会社より学校の方が閉鎖性が高いことだ。会社の方が息抜きできる。最近はそれがしづらくなる傾向にあると思えるんだけど,それでも学校に比べれば自由がきく。
 そして最後に,学校(特に高校)に比べると,暇ができるということ。大学でも部活なんかやってた人は,サラリーマンになると暇ができたと思うだろう。意外に思われるかもしれないけれど,そうなのだ。ただし,結婚して子どもができると,状況は一変するんだけどね。

● だから,あまり怖れない方がいいのだ。仕事をするのに頭は要らないと思ってもらいたい。どんな仕事でも,仕事じたいは単純作業の組合せでできていると考えて,まず間違いはない。
 出世したいとか,人の上に立ちたいとか,仕事を生きがいにしたいというのであれば別だよ。たんに仕事をするだけなら頭は要らないんだよ。

● とはいっても,ぼくの過去の経験は,これからの役には立たないだろうな。本書の著者は80歳を越えている人だけれども,雑誌の鬼編集長を経てきている人で,大過なくというのとは対極にある密度の濃い人生を生きてきた人だ。しかも,80歳を越えてなお現役だ。
 本書から示唆されるところは多いと思う。どうやって仕事を見つけるか,会社でどう泳いでいくか,何が仕事の役に立つか,どうすれば異性にモテるか,上司の覚えをめでたくできるか・・・・・・などなど,多くの経験知に触れることができるだろう。

● 以下に多すぎる転載。
 私が信じられないのは,なぜ学生たちがそのとき絶好調の企業に就職したがるか,という点です。「上がれば下がる」という原則を考えれば,下手をすると,将来,自分が役員になる寸前に,潰れる危険性だってあるからです。それに,そういう企業,業種には最優秀のメンバーが行く可能性が高く,二流,三流校出身者では歯が立ちません。また,そんな簡単な原理がわからないようでは,どの道,成功するなど,不可能でしょう。(p17)
 それも日本だけでなく,外国の裏通りに,将来注目されるような事業が転がっている,ともいわれています。(p19)
 私の経験では,週刊誌が一週間に必要なテーマは,最低五〇本です。テーマの大小は問いません。(中略)これはどういうことかというと,現代人は普通ならば,それだけのジャンルの話題を必要としているのです。(p20)
 ここが重要なのですが,雑学は女性のほうが,はるかにたくさん持っている,ということです。(中略)その理由は,男は好きなタイプを決めているのに対し,女性は常に新しいタイプの男性から誘われるからです。(p35)
 人生で最も重要な点は,目標をはっきりさせることです。結婚してもいいし,しないでもいい,と思っていたら,最良の結婚相手を逃がすに決まっています。(中略)何事にも中途半端な人は,自分自身に自信がないのです。(p35)
 人にかわいがられるには,かわいがられるだけの理由が必要です。無芸大食,無芸多飲でかわいがられることはありません。(p45)
 私は東京下町で育ったことから,町の老人たちに将棋を仕込まれたことが,大きなプラスになりました。(中略)私の失敗は,茶の湯を学ばなかったことでした。もちろんいまからでもいいのですが,茶の湯を知っていたら,もっと人脈が広がったものをと,残念でなりません。(p45)
 いまの若い人たちは,先憂後楽型ではありません。「若いうちに苦労を体験するから,あとで安楽になれる」といったことをいっても,笑われるだけです。(中略)若いうちに,できるだけ先に楽しんでおこうというわけで,私はこの生き方に大賛成です。(p48)
 うまく若者を使えない人たちは,彼らの信頼をかち得られないのです。(中略)こちらが信頼しないことには,彼らも信頼してくれません。(p49)
 この先楽型の若い男女とつき合うからには,こちらも相当幅広い知識を知っていなくてはなりません。明石家さんまは現在五七歳です。それでいて若い芸能人たちを,自由自在に操る芸は,天才といっていいでしょう。私が驚くのは,その知識の豊富さです。実によく勉強しています。(p50)
 スペシャリストは女性が断然有利であって,もともと男には向きません。スペシャリストとは,基本的に守備型であって,それ以外に目を向ける必要がありません。(p55)
 大量入社させる仕事は,誰でもできるものであり,あなたでなくてもいいのです。ということは,入社一日目からリストラ候補だ,と思わなければなりません。中でも男女が交じっている職種は,男子が圧倒的に不利です。(p56)
 男はもともとサラリーマンになるのを当然と思っていますが,女は個人能力を優先します。(p57)
 女性には敵も味方もなく,華やかな能力の男に引き寄せられる習性があります。なぜなら自分を華やかにしてくれる実力があるからです。(p57)
 それは男という生きものが,大から小を考えるのに対し,女性は小から大に上がる種族だからです。これを総体(大)から主体(小)と考えてもいいでしょうし,理論と実際と分けてもいいでしょう。これをわかりやすくいうと,男は「会社へ出かけて行く」と考えるのに対し,女は「会社から帰る」ことを主眼として考えます。(p60)
 女性の活用法について,ときどき他人の講演を聞くことがあります。ところが(中略)女性の目を輝かせられません。その理由は,会社側にとってプラスの話ばかりであり,そんなことを毎日していたら,自分の家が崩壊してしまいます。そこで「ワーク・ライフ・バランス」の問題になるのですが,私にいわせると「ライフ・ワーク・バランス」でないと,女性は興味を持ってくれないのです。(p61)
 三〇分で少なくとも二,三回は女性を笑わせなければダメです。女性を笑わすことができる人は,どんな仕事でも上に立つことができます。(p61)
 いまの世の中,どんなに実力があっても,誰かの助けを借りなければ,なかなかうまくいきません。(中略)私は若い頃から「櫻井牧場」という名称で,八人の女性を身近に置いています。それぞれ仕事や職業,それに年齢が違いますが,彼女たちの知識力情報力によって,編集長生活を無事つとめることができました。学生,OL,主婦,デザイナー,海外航空CA,銀座ホステス,女優,それにもう一人は,その時代のトップ職業の女性を入れていましたが,これだけの女性たちから集まってくる最新情報は,私を大きく助けてくれただけでなく,トップ週刊誌の編集長にまでもち上げてくれたのです。(p62)
 女性にいわせると「男はなんでも広がりのあるほうがいい」ようです。人脈はもちろんですし,話題もそうです。食の趣味はなお一層,広い男性が歓迎されます。和食しか食べない,といった男たちは,必ず敬遠されます。(中略)私は自分でいうのも気が引けますが,高年齢になっても,女性にモテます。若い時期と同様,八〇歳を超えていても,モテ方は衰えていません。それはなぜでしょうか? すべてに広いからです。女性の希望であれば,自分の気に添わなくてもOKしますし,なんでも許容します。自分から「イヤだ」とは,まったくいいませんし,むしろ初体験を歓迎します。(p67)
 女性は経験しないものを経験したい,という生きものなのです。その点では,男と較べものにならないくらい大胆ですし,勇気があります。(p68)
 一カ国語に堪能になるよりは,ちょっぴりずつでもいいですから,三カ国語,四カ国語をしゃべれるほうがいいでしょう。(p79)
 私はどちらかといえば,(フェイスブックで)積極的に発信している一人です。その理由は,バーチャルであっても,多種多様な人たちと接触することで,新しい考えがわかりますし,ときに熱烈なファンになってくれる人たちもいるからです。またどのくらい私の原稿を読んでくれるのか,さまざまな実験を行うこともできます。(p87)
 私はこのフェイスブック上では,相当時間を費やしています。私自身の経歴,考え方,人脈を知っていただくために,毎日,書きつづけています。それが面白いと,大勢の固定ファンがついていますが,これがいわば名刺代わりになっています。(中略)それと同時に,息子や娘たちにも,父親の生きざまを知ってもらうことにもなるのです。(中略)また面白いことに,息子や娘の友人たちともつながることにもなり,異世代,異性という新しい人脈を広げることにもなるのです。(p150)
 私の長年の経験では,現実の世の中では,意外に臆病な人が多いのです。(中略)こういった人たちにとって,バーチャルな世界は,住み心地がいいはずです。(p88)
 ある投資家と話していたら「一〇年ほど前に郵便貯金の定期に預けていた人が,一番儲かっていた」と笑っていましたが,金儲け本の著者の現実は,それどころではありません。本は売れても,投資した金はスッカラカンになっている,という泣き笑い状態なのです。(p89)
 私は彼女(佐藤綾子)としばらくの間,一緒に仕事をしたことがありますが,いつも笑顔でいる点に感心しました。笑顔を絶やさないのです。これは日本人のように,顔の表情を動かさない民族にとって,とても大事なことだと私は思ったものです。(p92)
 「なんでもすぐやってみる」というスピード性は,あらゆる分野,あらゆる業種に通じます。答えが一日でも一時間でも早く出るほうが,失敗の確率が少なくなるからです。(p128)
 「流行の法則」には- 一年後-みずぼらしい 一〇年後-みにくい 二〇年後-こっけいだ 三〇年後-オモシロい 五〇年後-古風 一〇〇年後-ロマンチック 一五〇年後-ビューティフル という順序で評価されるようです。(中略)これは社会は循環していることを暗示しています。(p128)
 私としては,酒を飲んでムダなおしゃべりをするくらいなら,その分を読書に回すほうが,必ずプラスになると思うのです。いや,読まなくてもいいのです。不思議なことに,背表紙の題名を見ているだけで,情報が目から入っていきます。もしその上に帯の文字を読めば,半分くらい読んだつもりになれるかもしれません。それくらい有効です。(p132)
 作家で大成するには,主人公などの会話が面白くなくてはなりません。私は多くの作家を育て,付き合ってきましたが,例外なくそうです。その理由は,会話には雑学が入る率が高いからです。それが時代背景を表す場合もあり,作家本人の生活であることもあって,会話の面白さが,作家の教養や知性の深さを表すからです。(p137)
 勉強でも資格でも,できるだけ変わったものに挑むほうがいいように,私は思います。そもかく多くの人の視点とは異なる方向に,目を向けることです。(p141)
 なにか突出した力をつければ,人脈は大きく広がるでしょう。それによって,多彩な人々と交わる可能性が生まれてきます。(p145)
 「念ずれば花開く」という言葉がありますが,私はこれを「常念必現」という四文字にして,座右の銘にしています。思いつづけていれば必ず実現することは,私の六〇年間のビジネス人生が証明しています。(p147)
 「秘密を持つ」ということは,大人になるということであり,だからこそ,性格に深みが出てきます。(中略)私の経験では,妻に隠れて遊んでいる男には,それなりの魅力がついています。それは,女性心理,妻の心理を,しっかり陰で勉強しているからです。(中略)隠しごとを持たない生活は,きびしくいえば,人生をサボっているのです。浅い人間,話のつまらない男は,結局,淘汰されていくと,私は思っています。(p152)
 ズバリいうと,失敗談を堂々と話せる人ほど,いい人脈を持っています。ある年齢になると,失敗を隠して,成功談ばかり話す人は,信用されなくなります。なぜなら,そんな人生はあり得ないからです。(p153)
 以前,ある高僧に教えられた中に「姿勢が大事」という一項目がありました。やる気のある人は姿勢がいい,つまり姿の中に勢いがある,というのです。椅子の座り方にかぎらず,立つ姿勢も同じであって「勢いを感じさせなさい」という教えは,いまでも私の中に生きています。(p163)
 現在,女性たちの社会進出はまだまだ上昇中で,中でも三〇~三四歳は,きわ立って元気です。ところが女性たちの潜在能力は? というと,それほど高くありません。(中略)性差学的にいうと,守備型だからです。自分の主義範囲は完璧にこなしますが,範囲を超えたものには興味を示しません。実際には潜在能力はたくさんあるのですが,女性特有の「成功への恐れ」が出てしまうのです。(中略)あまり仕事ができてしまうと,男性からよく思われない,という恐れです。(p171)
 私には一つだけ,大げさにいうならば「人生哲学」というべきものがあります。それは「人間に備わっているものは,すべて死ぬまで使いつづける」という考え方です。足にしても,幸いにして二足揃っているならば,歩くべきであり,できれば走ることも厭ってはなりません。(p190)
 歯がなくなって,しゃべれないというなら,安い入れ歯にせよ,入れるのが人間の尊厳を守る義務だと私は思っています。(p190)
 照明が暗すぎるから,華やかな色彩が生きないのです。死ぬまで,自分に備わっているものを使い切るには,環境をにぎやかにしておく必要があります。(p192)